青の羽根


それは遠い日の夢のような記憶。




ふわふわと青色の帽子についている黄色のチョコボの羽根が二枚、揺れる。
目の前で、歩くリズムに合わせて揺れる羽根を見た男は何処かで見た覚えがある、と眉を寄せた。

「あの〜…?」

男が物思いにふけていると目の前の青色の帽子についている羽根がふわっ、と回った。

内心で慌てつつも外見は平然を装いながら「どうした」と男は返した。

「私の帽子が気になるんですか?」

下の方で遠慮がちに声がし、見ると丸い瞳が男を見つめていた。シオンと名乗り、勝手に旅路についてきた少女は不思議そうに男を見上げていた。

「いや…そんなことはないが」

「…さっきから視線をすごく感じていたのですが」

シオンはくすっ、と笑った。
そして聞いてもいないのに話し出した。

「この帽子はまだ私が小さい時にある人がくれたんです」

後ろを向きながら歩くシオンにセオドアが危ないですよ、と注意をするが言われたシオンは知らんぷり。

「ある人?」

男が仕方がなく聞き返すとシオンはにこにこと笑いながら頷いた。

「はい。旅行先である方が母とはぐれて泣いていた私に自分が被っていたのをくれたんです」

「旅行先?どこに行っていたんですか」

セオドアがわくわくとした表情で振り返って聞く。シオンの家は各地を転々と回っている大の旅行好き一家だったと以前聞いたことがあり、それを思い出したのだ。

「今、私たちが目指しているところですよ」

「――バロン、ですか」

セオドアの言葉に頷くシオン。

「どんな方だったんですか?」

「竜騎士の人でした」

シオンの言葉に男は思わず足を止めた。
不思議そうに二人が歩みを止め、男を見つめる。

「どうしました?」

「――いや…」

男の脳裏である場面が浮かぶ。
あの日はちょうど仕事が一段落した時だった。気分転換にバロンの街に足を運び、賑やかな人々を武器屋の屋根の上から見ていた時だった。
1人の少女が人混みから抜け、地面にしゃがみこんでいた。
耳をすますと、微かにお母さん、と連呼しているのが聞こえた。
しばらく見ていたが母らしき人物は来る気配はなく、仕方がなく被っている青色の帽子を片手で抑えて屋根から飛び降りた。

「どうした?」

少女の前にしゃがみ、視線を合わせる。
少女は突然空から人が来て驚いたのか目頭に涙を残しながら目をぱちぱちとさせていたが、すぐに表情をぱっと明るくさせた。

「お兄ちゃん、りゅーきしさん!?」

さっきと正反対な少女に驚く。
が、すぐに頷く。

「やっぱり!わぁ、始めて見た!」

言うや、ぱちぱちと拍手を始める少女。

「お兄ちゃん、すごい!」

「あ、あぁ…」

反応に困る。すごいなどと始めて言われた。

――と、さっきまではしゃいでいた少女の表情が曇った。

「あのね…私、お母さん達とはぐれちゃったの。お兄ちゃんならお空から探せる?」

不安な表情で聞いてくる少女。
そう言われて出来ないなどと言える訳がない。

少女の頭を撫でながら「もちろん」と答えると少女は表情を明るくさせて「本当!?」と声を上げて喜んだ。

「ありがとう、お兄ちゃん!」




「――で、一緒にお母さんを探してくれたお兄さんが別れ際にこの帽子をくれたんです」

帽子を取り、ついているチョコボの羽根をそっと撫でるシオン。

――そうか。この少女はあの時の少女なのか。
男は納得する。…過去は捨てるべきだと考えていたが、捨てるものばかりではないのかもしれない。頭の隅にあった記憶の欠片を思い出したとき、心が温かくなった気がした。

「いつか、また会ったらお礼を言うんです。たくさんありがとうございました、って」

「その方の名前ってなんて言うんですか?」

セオドアが聞くとシオンはにっこりと笑った。
そして視線をなぜか男へと向けた。

「それは内緒です。でも、その内分かると思いますよ」

――どうやらこの少女は自分の正体に最初から気づいていたらしい。
だからついてきたのか…なかなか鋭い洞察力だ、と感心し、男は視線からそっと反らした。

「行くぞ」

二人にそう言い、男は歩き出す。
「あ、待ってください!」と声を上げてセオドアが早足で歩き出す。
残されたシオンはそっと帽子を被り、

「お兄さんにいつありがとうって言えるのかな」

そう呟く。
あの出来事は今でも忘れられない。
あの時、「お兄ちゃん」におんぶをしてもらってお母さんを探したのはいつまでも覚えていた。
去り際に「お兄ちゃん」から貰った帽子がずっとお気に入りで、あの日からどんなことがあっても被っている。彼がどんな思いでこの帽子をくれたのか、シオンには分からない。もしかしたら幼い自分はおんぶをしてもらいながらこのチョコボの羽根をいじっていて、彼は帽子が気に入ったのだと勘違いをしたのかもしれない。

先ほどの男の反応でシオンは彼があの時の「お兄ちゃん」だと確信した。彼は気がついていなかったかもしれないが、物思いに浸っていた彼はとても穏やかな表情をしていた。その表情は昔、迷子だった自分に話しかけてくれた表情と同じだった。

彼がなぜ、自分の素性を隠しているのか分からない。けれどいつか教えてくれるはずだ。

だからその時に言おう。
たくさんのありがとうを。
そう心に決め、立ち止まって手を振っているセオドアと腕を組んで待っている男の元へとシオンは走り出した。











(カインお兄ちゃん、すっごーい!)(こ、こら!暴れるんじゃない!落ちるぞ!)









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