還る場所は
ここが自分の居場所。
バロンに戻ってきてから数ヶ月が過ぎた。
赤き翼の隊長となったカインは各地を飛び回っていた。
――そして今日。
久しぶりに長期任務が終了し、バロンの地へと戻ってきた。
セシルに報告を済ませ、廊下を歩く。
途中、すれ違う兵士たちの敬礼を返しつつカインはとある部屋へと向かっていた。
――この時間なら自室にいるだろう。
会ったら何を話そうか、など考えていると気がつけば目的の部屋の前に立っていた。
ドアの前で軽く深呼吸をする。
そしてコンコン、とドアを叩いた。
が、返事はなかった。
「…出かけているのか?」
思わず呟く。
どうするか、と考えを巡らせているとドアが少し開いているのに気がついた。
「シオン?」
礼儀が正しくないことは分かっているがカインはドアをそっと開けて中へと入っていく。
するとシオンはソファに寝転がりながら本を読んでいた。
やっぱりか、とカインは思わず息をついた。
昔から彼女は何かに夢中になると周りの声が聞こえなくなるのだ。
カインはソファに近づき、シオンの前に立った。
それでもシオンは本に夢中なのかカインがいると気がつかない。
「シオン!」
名前を呼び、本を彼女の手の中から取り上げた。
「…あ」
突然、手の中から本が消えてシオンは一瞬不思議そうな表情をしたが、不機嫌そうな表情をしたカインと目が合い、「あれ?」と声を上げた。
「カインじゃない」
お帰り、と声をかけて手をカインが持っている本に手を伸ばした。
「あぁ、ただいま」と声を返しつつカインは本をシオンの手が届かない位置まで上げた。
む、とシオンは顔をしかめる。
「本を返してよ」
「断る。それよりも部下が困っていたぞ。お前が本に夢中で気づいてくれないと」
廊下で泣きついてきた黒魔道士を思い出しカインが言うと、シオンは「あっ!」と声を上げた。
「そういえば今日は新入生のテストの日だっけ」
「おいおい…いいのか、行かなくて」
むくり、と上半身を起こしてシオンは壁にかかっている時計を見た。
「ん〜…大丈夫でしょ、きっと」
「部下たちに同情するな」
カインはそう言い、シオンの横に腰を降ろした。
「酷い言われよう…そこまで言わなくてもいいじゃない」
「そう思うのならしっかりと仕事をするんだな」
とん、とシオンの頭を持っている本で軽く叩いた。
はいはい、とシオンは返事を返してカインから本を奪い、本が山積みにされている目の前のテーブルの上に置いた。
「それにしてもカインは忙しいのね。次はどこに行くの?」
シオンの問いにカインは肩をすくめて答えた。
「分からん。だが長期任務にはなるだろう」
「…赤き翼の隊長さんも大変ねぇ〜」
ことん、とカインの肩に頭を乗せてシオンは目を閉じた。
そんな彼女をカインはそっと自分の方へ引き寄せた。
「…寂しいか?」
そう聞くとシオンは「うーん」と唸った。
「そりゃあ寂しいよ。というか心配」
「心配?」
カインが不思議そうに聞くとシオンは目を開けてカインを見た。
「そう。ちゃんと帰ってくるのかなぁって」
「シオン…大丈夫だ。俺はちゃんと帰ってくる。」
はっきりとした口調で告げたカインにシオンは頷いた。
還る場所は
(でもさ、連絡ぐらいは欲しいなぁ)(無茶なことを言うな…)