邪魔はさせない


ちょっと不機嫌。



外面は微笑。内面は荒ぶる波のよう。
それを感じ取ったのか、カイリューは自らボールの中へと戻っていった。

「えっ、そうなんだ〜」

部屋の入口に立ちながらポケギアで電話をしているレイムはそれに気が付かない。先程から同じ相手とずっと話しっぱなしだ。

いつになったらこちらへ視線を向けてくれるのか。
アンティークな椅子に座りながら、手に持っているティーカップがカタカタと音をたて始めた。音に合わせて中に入っている紅茶がゆらゆらと揺れる。

そして数分後。
ついにワタルは動いた。
ティーカップを優しくテーブルの上に置き、ゆっくりと立ち上がると未だに電話をしているレイムの背後にすっ、と回り込む。
それに気づいたレイムは電話をしながらワタルを不思議そうに見上げた。

ワタルは微笑みながらそのまま何も言わずに後ろからレイムを抱きしめた。

「わっ…!」

突然のワタルの行動に短くレイムが悲鳴を上げた。

すると電話の相手が「レイム?」と声を発した。その声にワタルは目を細めた。

…この声は―ー

「あっ、マツバさん。すいません…ちょっ!」

やはりそうか。
ワタルは不機嫌オーラを全開にしてレイムの手からポケギアをひったくった。

「ワタルさん!」

少し戸惑った、それでいて怒気を含ませた声音で言うとレイムはするりと腕の中から抜け出し、ワタルの方へと体を動かした。そして手を伸ばす。
しかし、身長の差が大きすぎる。

――ぷつん。
あっさりとした音が部屋の中に響いた。

「随分と楽しそうに話をしていたな。俺と話す時よりも」

手を伸ばしたまま固まっているレイムの手の上に音が出なくなったポケギアを乗せたワタルの表情は清々しいほど笑顔だ。彼と関わりがない人々なら何も疑問に思わない表情。だが、ワタルの恋人という立場のレイムにはこの表情が何を意味しているのかなど容易に想像が出来た。

「そんなことは――」

「ないのかい?」

「ないです!絶対に!」

レイムは懸命に言ったがワタルから返ってきた言葉は「へぇ」と二文字。
明らかに信じていない。

ワタルの前でマツバと電話はまずいとは感じていた。けれど、わざわざ電話をしてきてくれたのにあっさりと切ってしまうのはなんだか気に引けたのだ。

「ワタルさん〜」

心の底から申し訳なさそうな表情のレイムにワタルも微かにたじろぐ。
が、先程の行動を思い出すとたじろぎも少しは消えた。

「…君が悪いんだぞ」

「分かっていますよぉ…ごめんなさい〜!」

瞳を潤ませて謝るレイムにワタルの中で罪悪感が首をもたげていく。
レイムは優しい。だから掛かってきた電話を切ることが出来なかったのだろう。
そう思うと悪いのはレイムではなく掛けてきた相手だ。レイムを困らせるのは間違っているのではないか。

「…本当に反省しているかい?」

ワタルの言葉にレイムは激しく頭を上下に振った。

はぁ、とワタルはため息をついた。せっかく時間を割いて会ったのだ。喧嘩をしていては時間の無駄だ。

「もう分かった。俺も悪かったよ」

ゆっくりとレイムの頭を撫でながらワタルはそう言った。
その言葉にレイムはぱっ、と表情を明るくさせるとワタルに抱きついた。

「ワタルさん大好き!」

笑顔で言ったレイムに「俺もだよ」とワタルは笑いながら返した。







(あっ)(…また電話か)(あっ、ワタルさん!?まだ誰かも確認していないのに切るなんてっ)(誰だっていいじゃないか)(…もう〜)








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