惚れた弱味
どっちがかっこいい?
ワタルのカイリューはかっこいい。そこらへんのトレーナーが連れているカイリューなんか比べ物にはならないくらいかっこいい。
「カイリュー!」
草が生い茂る地上に着地したカイリューに駆け寄り、抱き付く。
「お帰りなさい!」
そう言うとカイリューはぱたぱたと翼を上下に動かした。
ただいま、という合図…だと私は思い込んでいる。
「今日はどこに行ってきたの?」
私が聞くと、返事が返ってきた。
「フスベシティに行ってきたんだ」
よっ、とカイリューの背から飛び降りたのはワタル。ちなみに答えたのはワタルだ。
…私はカイリューに聞いたんだけどなぁ。
「ワタルには聞いていないんだけど」
「冷たいな、レイムは」
苦笑しながらワタルはカイリューをボールへと戻してしまった。
あぁっ…!まだ全然お話をしていないのに!
「俺と話すのがそんなに嫌なのか?」
私の前に立ち、ワタルは私の顔を覗き込んできた。
寂しそうな表情と裏腹に目は笑っていた。相変わらず性格の悪い人だ。
「嫌なわけ、ないじゃん」
「そうか。それを聞いて安心したよ」
そう言うとワタルは私の手をとり、歩き出した。勿論、手を繋いでいるわけだから私も意思に関係なく歩き出す。
「ワタル?」
「家に顔を出したら美味しそうな菓子を貰ったんだ。一緒に食べようか」
こちらを振り返り、にこりと微笑む。
その表情に不覚にも、どきりとした。惚れた弱味というヤツか。
それに気付いたのか、ワタルは何やら悪事をしそうな表情でこちらを見てきた。
ぴた、と足を止めてワタルは私を見ながら言ってきた。
「俺とカイリュー、どっちがかっこいい?」
惚れた弱味
(…カイリュー!)(…本当に素直じゃないな、君は)