お騒がせガール
恋に悩みは付き物です。
「…というわけで私はむしゃくしゃしているのっ」
「な、なるほどね」
サンヨウジム。
その中にあるとあるテーブルでデントはレイムの愚痴に付き合っていた。
レイムはよくこのジムに遊びに来ることが多い。特にデントとは気が合うようで良くこうして一緒に話すのだが今日のレイムはご機嫌が斜めだった。
「こっちばっかり好きで嫌になっちゃう!たまには絵のことを忘れろー!」
「と、とりあえずレイム、落ち着いて?ほら、コーヒーを飲もうよ」
「むぅ…」
デントがすいっ、とコーヒーの入ったカップをレイムの方へとスライドさせる。
それを受け取り、コーヒーを一口含むレイムを見てデントはどうしたものかと眉を寄せた。
レイムに恋人が出来たことは勿論知っている。長年片思いをしていて気持ちを伝えられずうじうじしていたレイムの背中を押したのは他ならぬデントだ。
結果的に相手はOKをし、晴れて恋人になったのは良いのだが。
「相手がアーティさんだもんねぇ…」
「そりゃあね、絵が大好きなのは昔からの付き合いだから知っているよ。でもさ、告白してから何にもないんだよ!?どっか出かけようって言っても忙しいだし!」
カップを盛大な音をたてながら置くとレイムは頬を膨らませた。
多分レイムも仕方がないことだと心の中では分かっているのだろう。
困ったな、とデントが腕を組む。
「レイムはアーティさんにどうしてもらいたいの?」
「とりあえず話をしたい」
「そ、そこからなのか…」
「最近はずっと絵ばかり描いているからね、アイツ」
「(口調がどんどん変わってきているのは気のせいかな…)」
「というかさ、アーティは本当に私のことが好きなのかなぁ?」
「嫌いだったらOKはしないと思うよ?」
「……駄目だ!もう訳が分からないよ、デント〜」
うわーん、とテーブルに突っ伏せてしまったレイムの頭をデントはよしよしと撫でるとドアが開く音がした。
ドアに向かっていらっしゃいませ、と笑顔で言い、再びレイムを見る――つもりだった。
「あ、」
思わず撫でていた手を止めて入口を見つめる。
ポッドとコーンが入ってきた人物に話しかける光景を見て――閃いた。
「ねぇ、レイム」
停止していた手の動きを再開させながらこちらを見てくるポッドとコーンに目配せをする。
それだけで2人が分かってくれるのは承知済みだ。
ポッドがぐっ、と親指を立てるのを見てデントは頷くと再び話しかけた。
「アーティさんのどんなところが好きなの?」
「な、なな何を急に言い出すの!」
「気になったから」
こちらへとそっと歩いてくる人物に気づきつつデントはレイムに話しかける。
「ねぇ、教えてよ」
「……絵を…描いている姿が好きなの」
「他は?」
「後は…ちょっとしたことでも真剣に聞いてくれたり、とか…」
「そんな風に思っていてくれたんだね」
「……はい!?」
がばっ、とデントの手が乗っていることを忘れて思いっきり頭を上げるレイム。
そこにいるのはにこにこと笑っているデントと、
「な、何でここにいるの…!?」
「家にいったらレイムがいなくて…近所の人に聞いたらここにいるかもって教えてくれたんだ」
少しだけ困ったような表情をしながらそう言ったのはアーティ。
まさかいるとは思っていなかったレイムは顔を赤くしながらデントを睨み付けるが、デントは特に気にした様子もなく、相変わらずの笑顔のまま椅子から立ち上がった。
「それじゃ、僕は仕事に戻るね」
「え、あ、ちょっと!」
「では、ごゆっくりどうぞ」
お辞儀をし、遠くで面白そうに自分たちを見ていたポッドとコーンの元へと歩き出す。
自分の出番はここまで。
後は2人の問題だ。
「レイム、あのね」というアーティの声を聞きながらデントはほっと息をついた。
お騒がせガール
(おいデント、見たか?)(何が?)(お前がレイムに触っていた時のアーティさんの表情、すごく怖かったんだぜ…)(へ、へぇ…)