始まりは、今
12月31日。
今日は大晦日だ。
「今年も終わりだね〜」
私がコタツの中で蜜柑を剥きながら言うとゴールドは「そうだな〜」と返した。
「今年1年、ゴールドは楽しかった?」
「んー…?そうだなぁ…けっこー楽しかったぜ。……レイムはどうだったんだぁ?」
「私?ん〜…ぼちぼち楽しかったよ。」
蜜柑を口の中に入れて答えるとゴールドはテレビから視線を外して私を見た。
「はぁ?なんだよ、それ」
「そのままの意味だけど。ぼちぼち楽しかったなぁ」
また1つ、口の中に蜜柑を入れる。
甘酸っぱい味が口の中に広がった。
「訳わっかんねーよ。」
ゴールドがモソモソとコタツの中に入ってくる。
そして私が剥いた蜜柑に手を伸ばす。
その手をぺちん!と叩く。
「いってー。叩くことないじゃねぇかよぉ。」
私に叩かれた手をさすりながらゴールドは言った。
自業自得だと思うんだけどなぁ…。
「ゴールドが私の蜜柑を奪おうとしたバツだよ。」
ゴールドの口の中に剥いた蜜柑を1コ入れてあげようと、蜜柑をゴールドの口に差し出す。
「おっ、サンキュー」
パクっとゴールドが蜜柑を食べる。
…危うく指まで食べられるところだったよ。
間一髪で指を引っ込めたらゴールドは顔をむすっとさせた。
「ちぇっ、なーんで避けるんだよ。」
当たり前でしょうが!
そう目で訴えるけどゴールドは知らんぷり。
「この蜜柑うめぇなぁ〜」
「ちょっとぉ、無視しないでよねっ!」
蜜柑の籠に手を伸ばしていたゴールドに言い、籠を取り上げる。
「おい!どーして取るんだよ!!」
「この蜜柑は私のなんだから!」
「あぁっ!?いつからお前のになったんだよ!」
「だって、これは私が持ってきたヤツだもん!」
「…ほぉ〜そういうことを言うかぁ。ならこっちにだって考えがあるんだぜ。」
ニヤッとゴールドが笑う。
こ、この笑いはロクなことを考えていない笑いだ…!
「ぐへへへへ…。」
ちょっと……その笑い、不気味なんだけどっ…!
「レイムが悪いんだからな。」
ええっ、私のせい!?
そりゃあ蜜柑の籠を取り上げたのは私だけどさぁ!
「ゴ、ゴールド君?少し落ち着こう?ねっねっ?」
「へっへっへ…もう遅いぜ〜どりゃあっ!」
「うわぁっ!?」
突然、ゴールドが私に飛びかかってきた。
慌ててコタツから抜け出してゴールドをかわす。
その時、私はすっかり忘れていた。
……自分が蜜柑の入っている籠を持っていることを。
「あっ…!」
蜜柑の入っている籠が斜めに傾く。
「――レイムっ!」
ゴールドが私に手を伸ばす。
そして、盛大な音と共に蜜柑が大量に落下していったのだった。
「いったぁ〜い…」
頭を押さえて私は声を上げた。
1つならまだしも大量に降ってきたのだ。
正直、かなり痛い。
「レイム!大丈夫かっ!?」
ゴールドが慌てて聞いてきた。
「んん〜大丈夫…」
ゴールドが頭の上に置いてある私の手をそっと退かして自分の手を乗せる。
そして撫でだす。
「ごめんな…俺が悪かった…」
シュンとうなだれるゴールド。
そんな彼に今度は私が慌て出す。
「えっ、そんな…!ゴールドは悪くないよ!私が籠を持っていたってことを忘れていたのがいけないし…」
「あ〜確かにな。オレの方ばから気をとられていたんだろ?」
ニヤニヤとしながら、そうゴールドは言った。
こ、こいつ…!さっきの態度はどこにいったんだ…
「あ、当たり前じゃない!何をしてくるのか分からなかったんだもん…!」
「んー…でも少しは悪かったって思ってはいるんだぜ?」
「少しなのね」
私がすぐにツッコミを入れるとゴールドは項垂れた。
「すぐそこにツッコミを入れるなよ〜」
そんなゴールドに私は思わずプッと吹き出した。
そんな私を見て、ゴールドは不満そうに言う。
「なんだよー?」
「ふふっ…なーんでもないよ。」
「気になるじゃねーか。おら、とっとと言えって。」
「え〜どうしよっかな。」
さっきのお返しとばかりに私が言うとゴールドはさらに表情を不満そうにした。
――その時。
壁にかけてあった時計が鳴った。
思わず2人で顔を見合わせる。
そして同時に笑いながら言った。
「「今年もよろしく!」」
始まりは、今
(なぁなぁ、いい加減に教えろよ)(…しつこいなぁ)