あのひのやくそく
待っているだけじゃ、ダメだ。
しばらくお世話になった病院に別れを告げるとレイムはゆっくりとした足取りで歩き出し――数歩で立ち止まった。
ゆっくりと後ろを振り返り、病院を見る。その表情はどこか名残惜しそうだった。
「……」
持っている鞄の持ち手をぎゅ、と握りしめる。
この病院に名残惜しい訳ではない。よくお世話になっている病院だし、これからもお世話になるだろう。
名残惜しいのはここで出会った彼ともう会えないことだ。
初めて会ったのは病院を抜け出してふらふらとしていた時だった。
院内の決まった景色に嫌気がさして飛び出たものの、特に行く場所がなかった時に頭上から声をかけられたのだ。
「ワタルさん」
あの日を境にワタルは突然来なくなってしまった。
やっぱり何かあったのだ。
けれど自分には言えないことで。
やはりあの時にもっと聞けばよかったのかもしれない。……今となってはすべてが遅いが。
病院をじっと見つめているレイムの横を2人の少年が走りながら通り過ぎていく。
少年たちの手にはモンスターボールが持たれ、2人は騒ぎながら走っていった。
「…ポケモン、か」
そういえば、家で家族と留守番をしているポポッコたちは元気にしているだろうか。
帰ったらまたいつものように飛び付いてくるだろう。
あの子たちは心配性だから。
――そういえば、彼もトレーナーだった。
もしかしたら、旅に出たのかもしれない。
そうだとしたら…
「……」
くるり、と病院から体を背け、歩き出す。
その足取りは先程とは違い、軽やかだ。
「じゃあな」
最後に交わした言葉が頭をよぎる。
あの時、レイムは「また来てくださいね」と返した。するとワタルはゆっくりと頷いたのだ。
また会おうという約束。
約束をしたのだ。ワタルが来れないのなら、自分から会いにいけばいい。
どこにいるのか分からないけれど。いつかきっと、また会える気がする。
「よーし!絶対にまた会いますからねっ」
ワタルさん!
澄み渡る空に向かって拳を突き上げながらレイムは宣言をした。
あのひのやくそく
(ねぇ、貴方はどこにいますか?)
お題→確かに恋だった