さよなら恋ときみ


さよならは心の中で。



さらさらと頬を撫でる風にうとうととしていると不意に開けてある窓の方から物音がした。
はっ、と意識が覚醒し、物音のした方を見るとそこには待ちわびた人がいた。

「ワタルさん!」

「窓を開けっぱなしにしていると風邪を引くぞ」

ワタルはプテラの背からレイムのいる部屋へと飛び移るとプテラをボールに戻し、窓を閉めるとレイムのいるベッドまでやってきた。

「風邪なんて引きませんよ〜」

「ベッドにいる奴が言っても説得力はないな」

「うっ、そうですね…」

むむっと眉を寄せるレイムにワタルは小さく笑うとベッドに座った。

「体の調子はどうだ?」

「ばっちりですよ!ご飯だってちゃんと全部食べれました!」

にっこりと笑いながらピースをするレイムにワタルは微笑みを浮かべながら「そうか」と返すとレイムの頭を撫でた。

病弱で入院がちなレイムと出会ったのは1ヶ月前のことだった。
看護婦たちの目を盗んで病院から抜け出したレイムをたまたま空から見つけたのが出会いだった。

「ねぇ、ワタルさん。今日はどんな話をしてくれるんですか?」

「あぁ…そうだな…」

考え込むワタルをきらきらと輝かせた瞳で見つめるレイム。
あまり外に出たことのないレイムはワタルの話を聞くのが楽しみだった。週に2、3回決まった時間に来てくれるワタル。そんな彼との会話が何よりの楽しみであるのだ。

――のだが、今日のワタルはいつもと違った。
どこが、と言われても困るのだがいつもと雰囲気が違う気がする。
何やら難しげな表情をしているワタルにレイムは恐る恐る話しかけた。

「あ、あの、ワタルさん」

「…なんだ?」

「何かあったんですか…?」

そう聞くとワタルは一瞬驚いた表情を浮かべたが、すぐにいつものように微笑みながら「気のせいだろう」と返した。
その言葉にレイムは安心をした。ワタルがそう言うのならそうだろうから。

「それよりも、今日はレイムの話を聞きたいな」

「えっ?わ、私の話ですか?」

「あぁ。いつもオレばかり話をしているだろう?」

「でも、つまんないですよ…?」

「それを判断するのはオレだ。それとも、オレには話せないか?」

「そんなことないです!」

ぶんぶんと頭を横に振りながらレイムは言うと唸りながら何を話そうか考え始めた。
その様子を見ながらワタルはそっと目を伏せた。

いつかは言わなければいけないことだとは思っていた。
これから自分は世界を敵に回すのに、いつまでもレイムといることは出来ない。
だから今日で会うことは終わりにしようと言おうと来たのにいざ言おうとすると言葉が出ない。
あの日、レイムに話しかけなければこんなに苦悩をしなかっただろう。けれどレイムと出会ってよかったと思う。
だが、己の理想郷のためにはレイムも消すことになる。選ばれた者のみが住む世界。すべてはポケモンのために。そう決めたのだ。

「えーっと、じゃあ家族構成から話しますね!」

「あぁ」

これでレイムとの会話は最後になるだろう。
最も、彼女には告げられないが。
しどろもどろに話し出したレイムを見ながらワタルは心の中でそっと別れの言葉を呟いた。








(オレが来なくなったらコイツは悲しむのだろうか)


お題→確かに恋だった








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