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「えっ…」
どうして、ここにいるんだ。
頭が真っ白になって何も考えれない。
彼――ワタルは私を見てほっとしたような、それでいて悲しそうな表情をしている。
「レイム」
なんでそんなに悲しそうなの。
ワタルの手が私へと伸びる――その時。
ふらっ、とワタルの体が傾いた。
「ワタル!?」
反射的にふらついた体を支えると目が合った。
「よかった、本当に……」
震えた声音でそう言うと冷たい手が私の頬に触れた。
こんな雨の中、来たから…
その冷たさで真っ白になっていた頭が回転を始めた。
そっとおでこに手を当てると案の定、熱かった。
とりあえず家の中に入れてあげないと…
半分意識が朦朧としているワタルをなんとかソファへと運ぶ。
そこに座らせると自分の部屋へと飛んでいき、毛布を持ってくる。
それをワタルに掛けて、次は――
とりあえず出来る限りのことはやり、息をついて彼の隣に腰を下ろした。
「…バカな人」
おでこに手をやりながら呟く。
どういう理由にしろ、こんな大雨の中に来るなんて。
そこまでして来る必要などないというのに。
すっ、と手を離すと今まで閉じられていた瞳がゆっくりと開かれた。
熱のせいか、ぼんやりとしている瞳が私を見ている。
「…――」
微かにワタルが何かを口にした。
しかし聞き取れず、私は「なに?」と耳を近くにした。
再びワタルが呟いた。
紡がれた言葉はたった一言。
その言葉に私の頭は再び思考が停止した。
今…なんて、言った。
呆然としている私にワタルはうっすらと笑った。
「泣くなよ…」
そう言うと私の背へ腕を伸ばし、引き寄せた。
熱のせいか、ワタルの体はぽかぽかと温かかった。
彼の腕の中で私は先ほど聞かされた言葉を心の中で復唱する。
「すまない」
なんで貴方が謝るの。悪いのは、私だ。
私が出て行かなかったらワタルは熱なんか出すことは無かったのに。
謝るのは私の方だ。
止まりかけの時計みたいな思考で結論を導き出すと私は顔を上げた。
「ワタル、あの」
ごめんなさい。
そう言おうとしたとき。
唇に人差し指が当てられた。
「…その先は、言わないでくれ」
意味が分からず目を瞬かせていると指が離れた。
「俺が、悪いんだ。…君にちゃんと話さなかったから」
バカだよ、本当に。
そう言葉を続けるワタル。
私が言おうとした言葉…分かっていたんだ。
「もっと、ちゃんと話して…おけば、」
言葉が途切れ途切れになり、目が少しずつ閉じられていく。
高熱なのに…無理をしたからだ。
本当に、本当にバカな人だ。けど、そんな彼がやっぱり好きなのも事実。
結局、私はこの人の元から去ることは出来ないのだ。
――ごめんなさい、ワタル。
「レイム」
名前を呼ばれ、私は「しゃべっちゃ駄目」と返した。
「よくなったら、話を聞かせて」
時間はまだあるのだ。それに彼は絶対に理由を話してくれる。
信じているから。
「ありがとう」
消えそうな声で言った言葉はちゃんと私にも届いていた。
ゆがみをただして
(今はゆっくり休んでね、ワタル)(明日には教えてくれるよね)
→ワタル視点