停止した時計は刻み出す
※「道しるべ」と「世界、そして自分も」の続き
雲が1つもない晴天。
こんな日は昼寝にもってこいだ。
バンエルティア号の甲板で寝転んだスパーダは欠伸をしながら目を閉じた。
海を走る船の揺れ具合が程よく眠気を誘う。
各地を1人で放浪しているスパーダは立ち寄った港で運良くバンエルティア号を見つけた。
チャットにどこに行くのか聞くとちょうど自分が行きたいと思っていた大陸へ行くと言ったため強引に乗せてもらったのだ(無論、向こうについたら依頼を1つやるという条件付きだが)
ゆっくりと目を開け、空を見る。
先程カノンノが見せてきた絵本の内容が頭から離れなかった。
「フルーリと出会ったのはね、バンエルティア号の甲板なんだよ」
空から降ってきたんだ、と懐かしそうに語ったカノンノにスパーダは一言しか返さなかった。けれどあの言葉が忘れられない。
自分がここに来たのは無意識に、カノンノが語ったように空からフルーリが降ってくると思ったからかもしれない。
馬鹿馬鹿しい、とスパーダは口元を歪めると視界の隅にカノンノが映った。
「スパーダ!チャットが呼んでるよ」
「チャットが?分かった」
カノンノが戻っていき、スパーダは起き上がった。
立ち上がり、軽く伸びをし、空を仰ぎ――
「あぁん?」
きらり、と何か光った。
小さな光だったが、微かに光った。
目を凝らしてみるが先程の光は消えていた。
けれど、あの光を見たときに自分の中で何かがざわめいた。
――もしかしたら。
「フルーリ」
ぽつりと呟き、スパーダは急いで船内に戻った。
目指すのはあの大樹。
そこで何かが起こると自分の中で予感がしている。
チャットに頼み込んでここに来てもらったスパーダは、着くなりバンエルティア号を飛び出した。
神秘的な景色を堪能している余裕など既になく(最も、スパーダは堪能したことがないが)、大樹を目指して足を進める。
そして、大樹の前に着く。
「……マジかよ」
呟いた声は微かに震えていた。
大樹を背もたれにし、座りながら目を瞑っている少女がいた。
その少女の手にはかつて自分がとある少女に渡した帽子。
「フルーリ…!」
名前を呼ぶと微かに瞼が震えた。
ゆっくりと両目が開かれるのとスパーダが少女を抱きしめたのは同時だった。
「んぁ…?す、ぱーだ…?」
ほわほわとした声が耳を擽る。
その声にスパーダは確信をした。
「フルーリ、本当にフルーリなんだな!?」
「ん〜!声が大きいよ、スパーダ」
「あ、わりぃ…って、何で俺が謝るんだよ!」
「いだっ」
しかめっ面のフルーリにデコピンをする。
痛い!と膨れた表情をしたフルーリにスパーダは思わず笑い声を上げた。
フルーリは変わっていない。あの時、別れてから。
それが嬉しかった。
「ったく、何年も待たせやがって」
「ご、ごめん…でも、スパーダが来てくれてたの、知ってたよ?すごく嬉しくてね、ちょっと早く起きれたの」
にこっと笑うフルーリにスパーダはそうか、と言いながら、こつんと額を合わせた。
「スパーダ、ちゃんと約束守ったよ」
「あぁ。つーか守るのは当たり前だろーが」
「そうだね!約束は守るためにあるんだもんね」
「はっ!偉そうなことを言いやがって」
額を離し、スパーダがにやりと笑うとフルーリもにっこりと笑った。
「さてと、カノンノたちの所に戻るか」
「うん!皆と会うの久しぶりだなぁ」
スパーダが立ち上がり、フルーリに手を差しのべる。
それに自身の手を重ね、フルーリは立ち上がると、背伸びをする。
フルーリのしたいことが分かったスパーダがあえて屈まないでいるとフルーリが小さく怒った。
「スパーダ!屈んでよ〜!」
「はぁ?何でだよ」
「むぅ…分かってる癖に」
「何のことか分かんねぇなぁ?」
「ううっ、スパーダの馬鹿!」
口をへの字に曲げるフルーリにスパーダは再び笑いながら少しだけ屈む。
直後、自分の頭に久しぶりの感触を感じた。
「やっぱりスパーダは帽子が似合うね」
「へっ、惚れるなよ?」
「ほ、ほほ惚れないもん!スパーダこそ私に惚れないでね!」
「はぁ?何言ってんだよ。俺はとっくの昔にフルーリに惚れてんだけど」
「……へ?」
目を瞬かせながら固まったフルーリにスパーダはにやりと笑い、手をとる。
「おら、帰るぞ」
「え、あ、うん…って、スパーダ!い、いいい今の言葉…!」
「今の言葉?そのままの意味だぜ?」
「そ、そのまっ…!?」
何やらぶつぶつと言い出したフルーリの手を引きながら、スパーダは笑いつつも歩き出す。
この少女にはまず、自分が3年もの間なぜここに来ていたのか、分かってもらわなければいけないようだ。
まぁ、時間は沢山あるから問題ないかとスパーダは帽子を深くしながら微笑んだ。
停止した時計は刻み出す
(繋いだ手は永遠に離さない)