甘い午後
初めてのお菓子作り!
スパーダが食堂に行くとフルーリが小難しい顔でオーブンとにらめっこをしていた。
…なにやってんだ?
不思議に思ったスパーダはそうっとフルーリの後ろへと忍び寄る。
幸いフルーリはオーブンの方に夢中で気がついていないようだ。
スパーダはしめた、とにやりと笑ってギュッと後ろからフルーリを抱き締めた。
「なーにやってんだ?」
「うひゃ!?」
奇妙な声を上げてフルーリは固まった。
その様子にスパーダは独特な笑い声を上げてフルーリから離れた。
「ス、スパーダ!」
フルーリが振り返る。
その表情はむすっと膨れっ面。
「ビックリした!」
「わりぃ、わりぃ」とスパーダは謝るがもちろん内心では全然反省などしていない。
むしろそれよりもオーブンの中にあるものが気になっていた。
「なぁ。オーブンの中に何があるんだ?」
スパーダが覗き込もうとするとフルーリが慌てて割り込んだ。
「だ、だめ!見ちゃだめなの!」
はぁ?とスパーダは眉を寄せた。
「なんでだよ。」
「い、いいからっ!あっち行ってて〜」
スパーダの肩を掴んで後ろへと追いやろうとするフルーリ。
そこに鼻歌を歌いながらパニールがパタパタと羽根を鳴らしながらやってきた。
「あらあら。何をしているの、お二人さん」
パニールがのほほんとして訊ねると、何か言おうとフルーリが口を開く。しかし、スパーダの大きな手によって塞がれてしまった。もがくフルーリを抑えながらスパーダは目の前でにこにこと微笑んでいるパニールに聞いた。
「なぁ、パニール。コイツ何を作ってんだ?」
「うふふ。それは出来てからのお楽しみですよ」
パニールの言葉にスパーダはますます眉を寄せた。
一体何を作ってやがるんだよ!
なぜか苛々する。理由は簡単だ。二人がーー正確にはフルーリが隠し事をしているからだ。
チッ、とスパーダが舌打ちをした時。
甘い匂いがほのかにしてきた。
「この匂いは…」
「あらあら。出来たみたいねぇ。さっ、フルーリさん。出しましょうか」
パニールの言葉にフルーリは、ぱあっと表情を明るくさせて頷いた。
スパーダが手を離すとフルーリは彼を見上げて言った。
「スパーダは椅子に座っててよ」
「あ?あぁ、分かったぜ」
言われた通り、スパーダはキッチンから出ていく。
とりあえず手前にある椅子にどかっと腰を降ろす。
するとキッチンからはフルーリの嬉しそうな声が聞こえてきた。
この匂い…甘い菓子でも作ったのか。
スパーダは心の中で呟き、壁にかけてある時計を見て安心した。
3時のおやつの時間になったら他の仲間たちが来てしまうからだ。
そこまで考え、スパーダは苦笑した。そこまでして彼女の作った物を1人で食べたいのか。
「スパーダ!」
キッチンからフルーリが顔を覗かせた。
その表情は幼い子供のと似ていてスパーダは彼女にバレぬように再び苦笑した。
「じゃじゃーん!」
声と共にフルーリはぱっ、と両手を前に出した。
フルーリの持っている少し大きめのお皿の上で甘い香りを放っている物を見てスパーダはやっぱりな、と笑った。
「アップルパイじゃねぇか」
スパーダが言うとフルーリはにっこりと笑って頷いた。
そしてスパーダの席まで歩きだす。
「お前が作ったのか?」
「うん!パニールに教えてもらったの」
机の上にアップルパイを置き、フルーリは椅子に腰を降ろした。
「ねぇねぇ!食べてみてよ!」
期待に満ちた表情でフルーリが聞く。
しゃーねぇなぁ、とスパーダはフォークを持つ。
「見た目は旨そうだな」
「…なーんか引っかかる言い方」
「気のせいだろ?」
「顔がにやけてるもん!」
膨れるフルーリの頭をわしゃわしゃと撫で、フォークで一口サイズに切る。
「それじゃ、頂くぜ」
口の中に入れる。
んー、と唸りながらモゴモゴと口を動かしているスパーダを心配そうに見つめるフルーリ。
「どう?」
「……旨いな」
「本当!?」
あぁ、とスパーダはにっ、と笑って言った。
その様子にフルーリは安堵の笑みを溢した。
「よかったぁ」
「初めてにしちゃあ上出来じゃねーか」
また一口。
次々と口の中に運んでいく様子を嬉しそうに眺めるフルーリ。
と、突然スパーダがフォークを止めた。
「どうしたの?」
「おらよ。お前、食べてねぇだろ?」
スパーダがフォークでアップルパイを刺す。
それをフルーリの口の前に差し出すとフルーリは「いいの?」と遠慮がちに聞いてきた。
「当たり前だろ。おめーが作ったんだからよ」
「…それじゃ、お言葉に甘えて。いっただきまーっす!」
ぱくっ、と口の中に頬張る。
「甘い〜」
うっとりとフルーリが呟く。
幸せそうな表情のフルーリにスパーダは「だろ?」と自身の口に一口、含むと「甘いよなぁ」と呟いたのであった。
甘い午後
(あらあら…お似合いカップルねぇ)(スパーダ、あーん!)(普通、反対だよな…)