海に溺れた水曜日









珍しい


某ファミレスの待ち合いスペースで、順番待ちの表に名前を書いてる水戸部を見ながら、黒子はぼんやりと考えた。



今日は練習後、ミーティングをすることになっていたが、カントクの都合で少し時間を空けてからになった。

時間も時間だから、先に空腹を訴える胃袋を黙らせてきてもいいと日向が言ったので、黒子は適当にファミレスに行こうとしたのだ。

するとほぼ同時にその入口に現れたのが


『水戸部先輩…』


黒子を認めると、水戸部は微笑んで店内を指した。


(一緒に…ということでいいんでしょうか…)


通訳の小金井の存在を探してみたが、珍しく一緒ではないようだ。


とりあえず店内に入ると、混み合ってはいたがすぐに空きそうな雰囲気である。

そこで話は冒頭に戻り…


「お待たせいたしました。ご案内いたします」


笑顔で駆け寄ってきた店員の案内で、空いている席に座る。


「お冷やになります。ご注文お決まりになりましたら、ベルでお呼びください」


当然のように店員は黒子の存在に気づかないまま、水戸部の前にだけ水と笑顔を残して去っていった。


「…………………」

「…………………」


気まずい沈黙が流れる。

黒子がチラリと水戸部を見やると、汗をダラダラ流しながら、黒子へのフォローを考えているようだ。


「気にしないでください。いつもの事なので…」


黒子がそう言って水をもらいに行こうとすると、水戸部がそれを制して自分の水を黒子の前に差し出した。


「…そんな、先輩のをもらうわけには…」


礼儀正しい黒子が断ろうとすると、水戸部はフルフルと首を振って、ニコッと笑った。


「……………」


そのまま呼び鈴を押すと、すぐに店員が飛んできた。


「お待たせしました。ご注文お決まりですか?」


相変わらず水戸部だけ見て話す店員の前で、水戸部は黒子にメニューを向け、優しい目で頷いた。


「えっと…和風オムライス一つと…水戸部先輩は………明太子パスタ一つ下さい」


すると店員は初めて黒子の存在に気がついたように、顔を引きつらせて飛び上がる。


「もっ…申し訳ありません!すぐにお冷やをもう一つお持ちします!!」


ペコペコ頭を下げて引っ込んでいった店員を、水戸部は悪いことをしてしまったかなというように見送っていた。

そんな水戸部を見て、黒子はフッと微笑んだ。


「…どうして小金井先輩が水戸部先輩の考えてることが分かるのか、分かったような気がします」

「?」


きょとんとする水戸部に、黒子は微笑んだ。






言葉はなくとも、先輩の表情は随分とお喋りなんですね













2012.9.15
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