地を愛した火曜日










今日はいつもより早く目覚めてしまった。

まだ時間に余裕はあったが早めに朝練へと向かうと、体育館には先客がいた。


「随分早ぇな、黒子」

「火神くん。おはようございます」


ボールを持って何故かゴールをじっと見つめていた黒子が、丁寧に頭を下げる。


「何してんだ?」

「…火神くんのことを考えてました」

「俺のこと?」


はい、と頷くと黒子は再びゴールを見上げる。


「この前の試合で、ゴールに頭をぶつけたじゃないですか」



丞成戦のことか

あれはガチで痛かった



あの時の事を思い出しながら額をさする。


「あんな高い所まで、跳べるものなんですね…」


高校生であの高さまで跳べるのは火神くらいのものだろう。


「君がコートの中で見ている世界はどんなものなんだろうと、考えてました」


そう言った黒子はいつもより儚げに見えて


「…ったく、しょうがねーな。ほれ」

「え?」


はぁ、と溜め息をついてぼりぼりと頭を掻くと、火神は黒子をひょいっと担ぎ上げた。


「か、火神くん…!?」

「だーもう、暴れんじゃねーよ」


そのまま黒子を肩車する。


「な…んなんですか。この状況」


誰もいない体育館で同級生を肩車する高校一年生男子と、同級生に肩車される高校一年生男子。

黒子が微妙な表情になるのも無理はない。

この光景のシュールさに気づいたのか、火神も若干慌てたような声音になった。


「だっ…だから!俺の世界!」

「は…?」

「俺が跳んだら大体その辺だろ」


黒子がゆっくり顔を上げると、目の前にはゴールがあった。


「してみろよ、ダンク」

「…………」


ぶっきらぼうに言う火神に素直に従って、黒子はボールを両手でゴールに入れる。


「…火神くん」

「あ?」

「火神くんはズルいですね」

「あぁっ!?」



だって

君は誰よりもゴールに近い位置にいて、僕は誰よりもゴールに縁がない。

このスタイルを選んだのは自分で、そのことに後悔はしていないけど、それでもやっぱり…



「すみません。言い間違えました」








火神君が、羨ましいです








そう言った時の火神の顔は見えなかったが、何かポツリと呟かれたのが聞こえた気がした。


「俺…だって、」

「?」


その時、体育館の入り口がどやどやと騒がしくなった。


「おー、黒子に火神」

「何やってんだ…?」


日向と伊月に不思議そうな目で見られ、火神は慌てて黒子を降ろした。


「黒子」

「はい?」









「俺だって、羨ましいと思ってるんだぜ?お前のそのパスセンス」











そう告げると、火神はさっさと背を向けてしまった。

後に残された黒子は、その背をポカンと見送ると、珍しくクスクスと笑いだした。



「ん、なんかいいことあったのか黒子?」


「えぇ…まぁ。早起きはするものですね」


















2012.8.24


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