落としてしまった(綾+兵)
今日も僕は穴を掘る。
深く深く掘り進めて、分からないように蓋をする。
目印を置くのを忘れたのは…まぁ、わざとだけど。
さぁ、今日は誰が落ちるかな。
「また伊作先輩かなぁ…」
それもそれでいい。
あぁ、滝夜叉丸や三木ヱ門が落ちるのも面白い。
地中からギャーギャー喚いている同級生を見下ろすのは、楽しいから。
「あ…」
誰か、掛かったな。
声にならない悲鳴が、聞こえた気がした。
たったったっとタコ壺に駆け寄り、ヒョイっと中を覗くと…
「…おや、まぁ」
「………喜八郎〜…!」
穴の中から笑っているような、怒っているような顔を向けているのは
「久々知先輩が掛かるとは、珍しい」
すると、久々知先輩は少しバツが悪そうに視線を逸らした。
「ちょっと、考え事してたんだよ…」
そんな久々知先輩の様子が面白くて、思わずクスッと笑ってしまった。
それが気恥ずかしかったのか、久々知先輩は言い訳するように呟いた。
「…つーか、目印も無いのに天才トラパーの落とし穴を避けれるわけないだろ」
おやまぁ
「もしかして、今僕は久々知先輩に褒められましたか?」
「そうかもな。早くここから出してくれよ。今日かぎ縄持ってないんだ」
その言葉に、素直に縄を垂らして久々知先輩を穴から助け出す。
「次からはちゃんと目印置いとけよ。低学年が掛かったら危ない」
「目印置いても低学年は気づきやしませんけどね」
久々知先輩が溜め息をついた。
「まぁ…落ちてもケガしないような作りにしてあるのが、気がきいてるというか…」
僕の掘った穴の底には、草やら藁が敷き詰めてある。
以前藤内を落として怪我をさせてしまったから。
「びっくりしましたか?」
「ん?」
「僕のタコ壺」
あぁ…と久々知先輩は頷いた。
「驚いたよ。まさかあんな所に穴があるなんて思わなかった」
素直な感想に満足する。
「落としてしまって、ごめんなさい」
「…反省してるように見えないから、減点」
パチンと僕の額を指で弾くと、じゃぁなと笑って久々知先輩は行ってしまった。
額をさすりながら、ぼんやりと考える。
さて、
明日はどこに掘ろうかな
2012.7.16