泣かせてしまった(三ろ+平)











「……げ、」





三之助の頬が引きつった。





「ちょ、待…おい平太…」


焦った様子で三之助が平太に手を伸ばした時、


平太の瞳から涙がポロリと零れ落ちた。


「ふ…ふぇええ…」

「うおおおい!!待て待て待て待て!泣くことないだろ!!?」


酷くうろたえながら三之助が平太を何とか泣き止まそうとする。

しかし平太の目からは、次から次へと涙が溢れ出て止まることを知らない。


「ええええ…マジで頼むから泣き止んでくれよ…こんなとこ誰かに見られた、ら、…」


ふと顔を上げると、ハタとこちらを見つめている人物と目が合った。


「…………」

「…………」







マズい




この状況は非常にマズい







「…三之助が」


「おい…」


「一年を」


「お前そこから動くな…」




背中に嫌な汗が流れるのを感じながら、三之助がジリッとにじり寄る。







が、しかし







やはりこいつは…!!










「さーくべー!!三之助がお前の後輩泣かせてるぞー!!」

「さもぉおおおおおおん!!!馬鹿テメ違うっ!!こら待て…っ!!」



全力で駆けていく左門に追いすがりたいのは山々だが、平太を放っておくわけにもいかない。

あっという間に姿が見えなくなってしまった左門に、肩を落として溜め息をついた。


「やれやれ…」

「…うっ…く…ひっ…」


なんとか泣き止もうと嗚咽を噛み殺している平太をチラリと見、三之助はしゃがんで目線を合わせた。


「なー平太。俺別に怒ってねーよ?」

「…っ…う…うぇえ…」


必死に何か言おうとしているらしいが、なかなか言葉にならない。

どうしたものかと三之助が途方に暮れていると、背後に殺気を感じて思わずゾクリとする。


「…三之助…」

「……っ…!」


振り向くのも恐ろしい。

先程の比ではないほど、背中に汗がダラダラと流れているのは気のせいではない筈だ。


「お前…何平太泣かせてんだ…?俺のかわいい後輩をよぉおおおおお!!!」

「か、勝手にキレてんじゃねーよ、この妄想癖!!俺は別に…!」

「じゃぁなんで平太泣いてんだ!平太が悪いのか!?」

「いや平太は悪くな」

「ならお前が悪いんだろ!?お前が悪くないならその理由を今ここで俺に説明してみろ200字以内でだ!!」

「とりあえずこの手を離せ馬鹿野郎!」


掴みかからんばかりの勢いで(いや実際掴みかかっている)作兵衛が三之助に詰め寄っている。

目の前でギャイギャイ喚いている三年生に、平太が泣きながらクイッと作兵衛の袖を引いた。


「…っ……ち、ちが……とまつ、せんぱ…」


そんな平太を見て作兵衛は急に優しくなり、その頭を撫でた。


「ん?なんだ…ゆっくりでいいから。言ってみ」


富松が辛抱強く平太が上手く言葉にするのを待っていると、ようやく平太はポツリポツリと話しだした。


「ぼ…僕……食満先輩に釘とか、金槌を…持ってくるように言われて…」








修理用の工具箱を探し出したところまでは良かった。

しかし食満の所へ向かっていた最中、石に蹴躓いて中身が空へばらまかれてしまったという。

大きく飛んだ釘や金槌、材木などは真っ直ぐに平太の頭上へと降り注いだ。


『ひっ…!』


とっさに頭を抱えてしゃがみ込んだが、何故か道具が地に落ちる音はしても何の衝撃もなくて…






『……って〜…』





『え…?』






自分ではない声に驚いてソッと目を開けると、自分の上に影が出来ていた。


『大丈夫か?…えっと…平太』


壁に両手をついて平太を庇ってくれたのが、たまたま通りかかった三之助だったのだ。










「そ、それで…僕……僕……」


またボロボロと泣き出した平太の目元を、三之助が自らの袖でゴシゴシと拭った。


「だから、怒ってないって。あれは事故…」

「いや、違う」


三之助の台詞を遮って作兵衛が言う。


「平太が言いたいのは、これのことだろ?」

「は?って…いでででででで!!?」


作兵衛が捻りあげた三之助の腕には、スッパリと切り傷が刻まれていた。平太を庇った際に怪我をしたのだろう。

その傷を見ると、平太の顔はますます歪んだ。


「ご…ごめんなさ…次屋先輩…ごめんな……ふぁああああん」


ピーピー泣く平太に、三之助はようやく合点がいったようだった。

困ったようにポリポリと頬をかく。


「あぁ…、お前これのこと気にしてたの?こんくらいの傷、舐めときゃ治」

「らねぇよ。けっこう深いぞこれ…さっさと医務室行ってこい」


傷口をジロジロ眺めていた作兵衛が、雑ながらも心配そうな表情になった。

えー…と不満げな三之助の腰に、問答無用で作兵衛がグルグルと紐を巻きつける。


「俺が三之助を医務室に連れて行く。平太、もう大丈夫だから気にすんな」

「ぅっ…で、でも…」

「平太」


尚もぐずる平太の前に、三之助が再びしゃがみ込む。


「早く食満先輩んとこ行ってやれよ。先輩待ってんだろ?」

「…次屋先輩…」


その頬を流れる涙を人差し指ですくうと、三之助はニッと笑った。




「今度は気をつけてな」











2012.7.17




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