例えば、君(誠凛)
「花宮に決まってんでしょーがっ!!」
リコの声が体育館に響き渡り、部員たちがビクッと首を竦ませた。
「びっ…くりしたー…。いきなりどしたの、監督」
「あ、あぁ…ごめん。何か天の声が聴こえたから」
「はぁ?」
リコの不可解な言動に部員たちは苦笑いだ。
「で、その声はなんて言ってたんだ?何が花宮?」
木吉がタオルで汗を拭きながらやってくる。
「えー、嫌いな人?」
「なるほど…それで花宮ね」
「俺は花宮嫌いじゃないけどなぁ」
納得したような伊月と木吉の間に、ひょっこりと黒子が顔を出した。
「木吉先輩って嫌いな人とかいるんですか?」
普段自分からは会話に加わらない黒子が珍しい。あれだけ木吉に酷いことをした花宮のことを、木吉が嫌いじゃないということが引っかかったのだろう。
「んー?」
「いなさそうよね」
「花宮ですら嫌いじゃないってんだからな…」
呆れ顔のリコと日向に苦笑いを返して、木吉は黒子に向き直った。
「そういう黒子は?」
「…僕、ですか?」
首を捻って考える黒子に、部員たちが興味深気に耳をすましている。
「人の頭をべしべし叩く火神くんみたいな人ですかね」
「俺かよっ!!?」
ちょうどシュート動作の真っ最中だった火神の放ったボールは、リングに当たって跳ね返った。
「黒子てめっ…!」
「冗談です」
「…………っ」
「笑うなぁっ!!…っで、ください!!そこっ!!」
くるりと背を向けて笑いをかみ殺す水戸部に、火神がビシッと指を差す。
そんな火神を見て、黒子はクスッと微笑んだ。
今日も誠凛バスケ部は平和なものだ
2012.6.15