例えば、人混み(誠凛+α)
「今日の部活は完全にオフよ」
きっぱりと言い切ったリコの目前にズラリと並んだ誠凛バスケ部は、げんなりとした目でリコを見やった。
「いや…いやいやいやいや!!ちょっと待ってくれよカントク!練習休んでる場合じゃ…!」
「黙りなさいバ火神」
勇敢というか無謀というか、とりあえずリコに食ってかかった火神だが、絶対零度の声音に一蹴される。
「確かに練習も大事よ。大事だけど…バスケの練習ばっかりしてても、このサイトの運営は成り立たないわ」
「は!?サイト…?えっ、何?」
「うるさいわね!天の声が今日は休みだって言ってんのよ!!」
頭に疑問符が駆け巡っている一年と違い、二年生はリコの奇行には何を言っても無駄ということはよーく分かっている。
今日の部活は諦めよう
「そんなわけで、今日はここで遊ぶことにするから!」
打って変わってにこやかな笑顔になったリコがバッと手で示したのは…
「ここって…ここか…!?」
最近都内に出来た、超巨大遊園地
オープンしたてのテーマパークは、カップルや家族連れで賑わっている。
「さて、今から一つゲームをします」
「ゲーム?」
「今この場にいない人がいるわね」
その言葉に部員たちが視線を巡らす。
「……?全員いる…よな?」
「いや…一人いない!」
「まさか…!!」
「そう。そのまさか」
リコが不適な笑みをたたえて部員たちを見やる。
「このテーマパーク内に黒子くんがいるわ。捜し出した人が勝ち。捜せなかった人は、帰ったら練習メニュー3倍よ」
「無理だぁああああああ!!!」
「アホかカントク!!この人混みの中から、よりにもよって黒子を捜し出すだと!?」
「これも体力アップと視野を広げる練習の一環だと思って☆」
「今日は部活要素は完全に無しの日じゃないんすか!!?」
ギャーギャー喚く部員たちに、リコが笑顔のまま言い放った。
「いいからさっさと捜してきやがれ」
「はいい!!」
条件反射のように思わず返事をしてしまった自分たちに舌打ちする。
「ったく…しゃぁねーなぁ。オラお前ら、行くぞ」
日向の号令で部員たちが一斉に駆け出して行った。
***
まったく、楽しむどころの話ではない。
よく晴れた休日の遊園地は―
「恐ろしい…」
右を見ても、左を見ても、人、人、人、人の群れ
「この中から黒子を捜し出す…か…」
ゴクリと息を呑んだ火神の頬を伝った汗は、眩しい日差しのためか、はたまた別の理由のためか…
「やるしかねぇ!!」
気合いだけは十分に人混みへと突き進んでいくが、数時間たっても黒子の気配すらも感じられない。時間だけが無情に過ぎていく。
「…くっ…」
本当にここに黒子がいるのかも疑いたくなってきた頃、不意に声をかけられた。
「あれ、火神じゃん」
「あ?」
振り返ると、そこにいたのは
「高尾…!?緑間!!」
「なんでお前がこんな所にいるのだよ…!」
緑間が憎々しげに悪態をつく。
「そりゃこっちの台詞だ!なんでお前らがっ………いや、今はそんなことどうでもいい。黒子見なかったか!?」
「黒子?んー…」
高尾がキョロキョロと周囲を見渡す。
「黒子なら、あそこだけど」
高尾が指差す先には、確かにソフトクリームを食べながら歩いている黒子の姿。
「見つけた!!待ちやがれ黒子ー!」
「礼くらい言ってくのだよ、火神!」
緑間の声に振り向きもせず、黒子に向かい全力で走るが、フイッとまた人混みに紛れてしまった。
「くそっ!」
チッと舌打ちして高尾と緑間のところに戻ると
「いた!高尾ー!!」
「高尾ちょっと手伝ってくんねぇ!?」
「高尾がいるって聞いたんだけど!」
「ちょっ…!!な、なんなんすか誠凛さんっ!?」
誠凛バスケ部に囲まれ、焦っている高尾と緑間が目に入った。
考えることはみんな同じか!
高尾がこの状況ということは、ここにいない半数は伊月のところにいるのだろう。
「え…なに誠凛さん、黒子捜してんの…?」
いつものニヤニヤ笑いはどこへやら、誠凛の鬼気迫った迫力に涙目になりながら黒子の姿を捜してみる。
「あ。あそこ…、に!?」
「よしお前も来い黒子探知機!!」
「ええええええっ!!?」
「高尾ー!!Σ」
一瞬にして誠凛に高尾を拉致され、残された緑間はなす術もなく見送るだけだった。
見つけては見失うを繰り返し、途中で伊月組とも鉢合いながら、とうとう黒子の腕を掴まえた頃には夕日が赤々と空を焼いていた。
「あれ…どうしたんですか、そんなに疲れて。高尾くんまで」
黒子が疲れ果てている誠凛バスケ部+αを見て首を捻る。
「お…お前は…チョロチョロ動き回りやかって…!」
「…黒子、帰ったら練習3倍な」
「え」
とっくにクラッチタイムに入っていた日向の言葉に、黒子の頬が若干引きつった。
「はぁ…黒子ぉ〜…今度俺と真ちゃんにメシ奢れよ…」
高尾が苦笑いで地面にへたり込むと、次々と皆座りだした。
「はは…人混みなんて、大っ嫌いだ…」
誰からともなくポツリと呟かれたその言葉は、真っ赤な夕焼けに吸い込まれていった。
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無理やり感満載^P^
高尾と誠凛を絡ませたかっただけだよ!
出番は無かったけど、秀徳御一行様も同じ遊園地に来ていました。
2012.6.23