例えば、私(竹+勘)










「だーかーらぁ、ここはこうだっつってんだろ」

「…う〜…」


紙を前に筆を持ってうんうん唸っている竹谷に、三郎は顔をしかめた。


「お前ほんっとに教科はアホだな…」

「三郎、そんなこと言わないで。ちゃんと教えてあげなよ」


困ったように雷蔵が三郎をたしなめていると、竹谷がふてくされて筆を置いた。


「あーあー、どうせ俺は馬鹿ですよっ」

「なになに、どしたのはち?」

「また三郎と揉めてんのか」


部屋の戸を開けて顔を出した勘右衛門と兵助に、雷蔵が苦笑いを送る。


「はちがテストに引っかかっちゃってさ、三郎に追試対策してもらってるんだけど…」


その言葉に兵助がピクリと眉を動かした。


「何だと…?どんな問題落としたんだよ。俺にも見せろ」

「うっ…!」


竹谷の顔が引きつる。
学年トップの成績を誇る兵助に見られたら…!


「はぁあ!?何でこんな簡単な問題が解けないんだよ!アホか!アホなのかお前!?」

「へ、兵助やめて!やめたげて!はちのライフはもうゼロよ!!」


竹谷の前にある問題を覗き込んだ途端、鬼の形相になった兵助を、勘右衛門が慌てて止めにかかった。


「貸せ。俺が教えてやる」

「兵助、このモップ頭に分かるように説明するのは至難の技だぞ」

「いいいいいよ兵助っ!お、俺、三郎に教えてもらうから!!」


竹谷が両手を顔の前でブンブンと振って辞退する。

勉強を教える時の兵助のスパルタっぷりは、一回でトラウマになるレベルだ。

兵助に教えてもらうくらいなら、三郎に教えてもらった方がまだマシである。


「兵助も三郎もさぁ…1と10だけ教えられても…2から9を教えてくれよ…」


ぶつぶつと筆を持つ竹谷に、三郎はクッと右手で顔を覆った。


「許せはち…私は、こんな教え方しか出来ない自分がっ…大嫌いだ…!」

「だぁああああ!!嘘くせぇっ!!」


ガラガラガッシャンとちゃぶ台でもひっくり返しそつな勢いで、竹谷が立ち上がった。

三郎の教え方には悪意を感じる。


「ごめんねぇ、はち。僕も人に教えるの得意じゃないからさ」

「あぁ…うん、いいよ雷蔵。ありがとうな」


雷蔵の教え方は大ざっぱすぎて三郎以上に訳が分からない。

はああと竹谷が溜め息をついて座り直すと、勘右衛門が笑いながら机に肘をついた。


「俺もこの問題には苦労したよ。この引っ掛けにいつも引っかかっちゃってさぁ…」


その言葉に、竹谷が目をまん丸くして勘右衛門を見つめた。


「これ、引っ掛けなのか?」

「え?あ、うん。これがこうなって…こうだから…ほら」

「…………」


黙ってしまった竹谷に、三郎はニヤニヤ、雷蔵はニコニコ、兵助はやれやれと、勘右衛門は不安そうに竹谷を見やった。


「勘!俺に勉強教えてくれ!!」

「うわっ」


竹谷が急にガバッと顔を上げ、勘右衛門がのけぞった。


「お、俺?でも俺、そんなに頭良くないよ?」

「この問題くらい解けるだろ!?」

「当たり前だ。勘だってい組なんだぞ」


心なしか誇らしげな兵助に、勘右衛門が焦ったような目を向ける。


「勘は自分に自信無さ過ぎなんだよ。お前はちゃんと、出来る奴なんだから」

「だ、だって…」

「とにかく!な!勘しかいねーんだよ、このとおり!!」


手を合わせて拝む竹谷に、勘右衛門は戸惑いながらも頷いた。








***













「勘ーーーーーーん!!!!」

「あ、はち。追試どうだっ……おわぁああああ!!?」


廊下で渾身のタックルを食らった勘右衛門が盛大に吹っ飛んだ。


「サンキューな!ほんとに勘のおかげだ!!」

「いてて……その様子じゃ、通ったみたいだな。良かった」


頭をさする勘右衛門を引き起こして、竹谷がへへへと笑った。


「俺さぁ、ほんとに実技しか能がねーから。普段委員会で後輩にあれだけ頼りにされてるのに、追試なんてすげぇ情けなくて、格好悪くて…馬鹿な自分が大嫌いでさ」

「はち…」


いつも快活に笑っている竹谷が、珍しく弱々しい笑みを見せている。


「後輩たちが『竹谷先輩はすごい』って言ってるの聴くたびに、すげー自己嫌悪してたんだ。でも」

「…………」

「勘の説明、すげー分かりやすかった。理解出来ない俺の気持ちまで汲み取ってくれて、初めて勉強が理解出来たって気がした」


顔を上げた竹谷は、もういつもどおりの明るい笑顔で


「勉強って、理解出来たら楽しいのな!良かったらまた教えてくれよ!」

「………!」


勘右衛門の目が見開かれる。













―待って






―待ってくれよ






―置いていかないで…









い組なのに、パッとしない成績






それが勘右衛門に貼られたレッテルだった。


まるで真っ暗なトンネルの中のよう、先へ先へと行ってしまう級友たちに追いすがろうと、必死に手を伸ばす自分


それが尾浜勘右衛門の抱えている闇


そんな勘右衛門の闇を晴らすかのような竹谷の笑顔に、勘右衛門の心は少し救われたような気がした。


「…ありがと。はち」

「え?」


何でもないと首を振ると、勘右衛門もにっこりと笑った。








「俺でよければ、いつでもどうぞ」




















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思いのほか長くなってしまった…

兵助は勘の闇に気づいて、案じています。
うちの子は決して出来ない子じゃないんですが、ネガティブ思考というか、自分に自信が無いばっかりに実力を出し切れない部分があるんですね。

兵助にしてみれば「そんなことないのに」と思っています。
普通にそこらの忍たまよりは出来るんですよ。
三郎と兵助は別格だけど、竹谷はもちろん、雷蔵よりも勉強できます。勘ちゃんは


でも勘にしてみれば、学年トップの兵助が近くにいるからこそ、自分の出来なさがより際立って見えてしまうのかもしれません。
竹谷のような存在が、勘ちゃんを救ってくれたらいいなと思います(^^)




2012.6.21


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