例えば、雨の日(勘+雷)










ポツッ




水滴が鼻の頭を濡らした。


「げっ…」


勘右衛門はあからさまに顔をしかめると、急いで軒下に駆け込んだ。

町に出かけていたところ、急に雲行きが怪しくなり、ポツポツと雨が降り出したのだ。雨足はすぐに激しくなり、あっという間に豪雨となる。


「うわー…最悪…」


雨は嫌いだ。
濡れるし地面はぬかるむし…

それより何より、この雨じゃ学園に帰れない。通り雨だと思うのだが、いつまで足止めをくらうのか。

やれやれと思いつつ壁に背を預けていると、雨の中から一人の少年が勘右衛門のいる軒下へと飛び込んできた。

突然の雨だったから仕方ないとは思うが、少年はビショ濡れである。


「はぁ…最悪だ…」


服についた雫を払いながら自分と同じことを口にした少年をチラリと見、あれっと思う。


(この人…兵助の友だちの…)


勘右衛門の視線に気づいたのか、少年が顔を上げて苦笑いながら会釈をしてきた。

勘右衛門も軽く頭を下げるが


(…どうしよう)


その後広がる沈黙にいささか気まずさを感じ始める。

友だちの友だちとは、どうにも接し方がよく分からない。
名前くらいは知ってるのだが…


「尾浜くん、だよね?」

「うぇあっ!?あっ、は、…うん」


ボーっとしていたところに声をかけられ、盛大に動揺してしまった。

少年はそんな勘右衛門の様子に丸い目をさらに丸くしたあと、微笑んだ。


「僕は…」

「不破、だろ?」


雷蔵のセリフを遮って言うと、雷蔵は嬉しそうに目を細めた。


「知ってたんだ」

「兵助がよく話してくれてるからさ。不破と…竹谷と、鉢屋のこと」

「兵助が?嬉しいなぁ」


少し照れてみせる雷蔵に、勘右衛門は好感を持った。


「尾浜くんのこともね、兵助よく話してるんだよ」

「俺のこと?うわー何て言われてんだろ」


おどけてみせると、雷蔵はふふっと笑った。






「『勘は俺の自慢の友だちだ』」






は、と思わず固まった。


「え……えぇ?…そんな、へーすけ…あ、あいつ何言って」

「妬けちゃうね」


しどろもどろになりながら俯く勘右衛門に、雷蔵は笑顔で言い放った。


「君のこと話す時、兵助ってば本当に嬉しそうなんだもん」

「……………」


その言葉に、もう何も言えなくなる。


あの兵助が?


俺が憧れすら抱いている、頭脳明晰、成績優秀ない組の司令塔、久々知兵助が自分のことをそんな風に?


(やばい…)


超、嬉しい


持ち上がってしまう口角を隠すように、勘右衛門は口元を手で覆った。

そんな勘右衛門を、雷蔵が優しく眺めている。


「あ…雨、上がったね」


雷蔵が手のひらを空に向けて、軒先から出て行く。



雨上がりの綺麗な空は、初夏の訪れを知らせてくれているようだった。

























(こんな出会いがあるのなら)







(雨の日も悪くない)











2012.6.30


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