落乱 | ナノ


▽ 俺には俺の 前編(体育)








「委員会対抗戦?」

「そ。学園長の思いつきだってさ」

「またか…」

「優勝者には賞品が」

「どうせブロマイドだろ」

「はは、当たり」


そんな会話が至る所で交わされたある日。

授業計画が狂うと泣く教師もいる中、「委員会対抗戦」は行われた―…






***






「三之助、しっかりこの縄を握っていろ」

「なんで俺だけ…」

「お前がすぐいなくなるからだ!いい加減自覚しろ、この方向音痴!!」


不満げな三之助に、滝夜叉丸が怒鳴る。


「滝ー、ちょっと静かにしろ」

「す、すみません…」


小平太に言われて滝夜叉丸が手で口を覆う。


(お前のせいだぞ!)

(あんたが勝手にでかい声出したんでしょうが)


尚も小声で言い争う二人に、金吾と四郎兵衛はオロオロするばかりだ。


「まったく、なんで学園長のブロマイドの為に対抗戦なんか…」


三之助がボヤいた時、小平太が三之助の口を手で塞いだ。


「静かに」


笑ってはいるが、いつもと雰囲気の違う小平太に、体育委員たちはビクリとした。


「七松先輩…?」

「この対抗戦は中止だ」

「え?」


体育委員たちが不思議そうな表情になる。


「屋敷にいる山賊を退治した委員会が優勝って話だったが…まいったな」


小平太の頬を汗が伝った。
獣並みの感覚を持つ小平太でも、真剣に探らないと分からないくらいの小さな気配。
そこから感じられる圧力は、忍務地で何度か感じたことのある、紛れもない強者の威圧感。


「何の手違いがあったのかは分からないが…とても低学年を連れて挑める相手じゃない。滝、お前でも瞬殺されるぞ」


その言葉に全員の顔が青ざめる。
笑みを絶やさない小平太に、冗談でも言っているのかとも思ったが


(違う…)


少しでも下級生たちを不安にさせないための笑みなのだろう。
小平太の目は全く笑っていなかった。


「とりあえず、ここから離れる。出来たら他の委員会と合流して…」

「先輩ッ!!!」


滝夜叉丸が叫んだ瞬間、金属音が響いた。


「ネズミか」


その声に背筋が凍った。
何故今まで気づかなかったのか不思議なくらいの禍々しい殺気に、思わずあてられそうになる。


「逃げろお前ら!!」


敵の斬撃を防いだ小平太が、下級生たちを背に庇うようにして立ちふさがった。


「あ…あ…」


金縛りにあったかのように動かない金吾を、滝夜叉丸が担ぎ上げる。


「三之助!四郎兵衛を!!」

「…っ!シロ!」


滝夜叉丸の声にハッとして、三之助が四郎兵衛の手を引いて走り出した。


「三之助…!死ぬ気で私の背中だけ見てろ!絶対にはぐれるなよ!!」

「…はい…っ」


萎えそうになる足を叱咤しながら、必死で滝夜叉丸を追いかける。
左手に感じる小さな手は、冷たく震えていた。


「せっ、せんぱい!七松先輩は…」


金吾が滝夜叉丸の肩の上で泣きそうに言った。


「大丈夫だ。あの七松先輩がやられると思うのか?」


まるで自分に言い聞かせるように答える滝夜叉丸に、金吾は潤んだ目をぐいっと拭って、力いっぱい首を振った。

その時


「まだいたか」

「―――!」


突然現れた別の敵に、滝夜叉丸が金吾を三之助の方へ思い切り放り投げた。


「うわっ!」

「三之助ッ!逃げ―」

「滝夜叉丸先輩!!」


四郎兵衛が叫んだ瞬間、敵の刀が振り下ろされた。





ギンッ





「…滝…」

「き、喜八郎!?」


滝夜叉丸と敵の間に割って入った喜八郎は酷くボロボロだった。


「逃げなよ…こいつら…強すぎる」

「お前を残して行けるわけないだろう!」


そう言っている間にも敵の攻撃が喜八郎を襲った。


「ぐっ!」

「喜八郎!!」


喜八郎に駆け寄った滝夜叉丸が振り返る。


「行け!」


固まっている金吾と四郎兵衛の手を引いて、三之助が駆け出した。
走りながら、敵の殺気にあてられた四郎兵衛が吐いた。


「シロっ…」


ほとんど引きずるように逃げていると、不意に天井から一つの影が降りてきた。


「大丈夫か!?」

「土井先生!」


ホッと安心する三人を連れて、半助は空き部屋に隠れた。


「すまない、対抗戦は中止だ。敵のレベルが違いすぎる」

「なんで…」

「本当は五、六年生がついてたら十分勝てる相手のはずだったんだ。そいつらが…全員殺されていた」

「!?」

「今ここを根城にしてる奴らは、何者かは不明だが尋常じゃなく強い。先生たちもみんな来てるから…早く学園へ」


言いかけた半助が口をつぐんで立ち上がると、いきなり扉を蹴り飛ばした。
現れた敵に躊躇なく刀を振り下ろす。


「次屋、分かってるな!二人を…」


最後まで聞かないうちに、三之助は金吾と四郎兵衛の手を引いて走った。


「次屋先輩!」


金吾の声を聞きながら、いつか滝夜叉丸に言われたことを思い出す。





―いいか、三之助



―私には私の、お前にはお前の、やるべきことがあるだろう?







「俺の、やるべきこと…」









それは










両手にギュッと力をこめる。













こいつらを、守ること

















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