バトルロイヤル(後編)
厄介な相手に出くわした。
富松が舌打ちして相手を睨みつける。
いくらこっちが二人だからって、この人相手には下級生が何人いても適いやしないだろう。
「どうします、富松先輩」
「とりあえず俺らは巻物を持ってないから、やられても問題ない」
「でも印を取られたら向こうのポイントですよ。逃げますか?」
「逃げられる相手じゃないだろ」
「だったらやるべきことは一つですね」
「印を取られても足止めするぞ」
ニヤニヤ笑っている三郎に、富松と庄左ヱ門が武器を構える。
「上級生が相手でも逃げないか。いい度胸だ」
余裕綽々の三郎がこちらに向かってくる。
ジリッと退きかけた足を叱咤して踏みとどまると―…
「待て待て鉢屋!私が相手だ!」
「げっ…!」
三郎が露骨に嫌そうな顔になる。
突然現れた小平太が獣のような笑みで拳を握った。
「一度お前と勝負してみたかったんだ。本気で来いよ」
「私はあんたとだけは戦いたくなかったですけどね…」
いつになく真剣な目をしている小平太からは、逃げられそうもない。
やれやれと溜め息をつくと、三郎も拳を体の前で構えた。
「富松、庄左ヱ門、さっさと逃げな」
巻き込まない自信は無いぞ
* * *
「お前が相手かよ…」
竹谷が苦笑した。
「残念ながらそうみたいですね。可愛い後輩に、印を譲って下さる気はありませんか」
いつものように表情をあまり動かさないで、孫兵が言った。
「やりたいとこだが、そいつは出来ねーなぁ」
「だったら力ずくでいただきます」
その言葉に、流石の竹谷もピクリときた。
「俺に勝てるのか?孫兵」
「いえ、僕では無理です」
「だったら…」
「僕なら分からないよ」
耳元に囁き声を聞いて、竹谷が瞬時にその場を飛び退く。
「…お前とは、183勝95敗38分けだったはずだ」
「うん、確かに僕より君の方が強いね。でも」
ヒュンヒュンと振り回された長い棒の先が突きつけられる。
「その内武器有りだったら、僕の54勝13敗7分けだろう?」
行くよ、八左ヱ門
雷蔵がいつものように、にっこりと笑った。
* * *
学園の屋根の上を走る。
(今日はいい天気だな…)
一瞬の現実逃避
すぐに表情を引き締めて、三之助が背後に向けて手裏剣を放つ。
金属音が聞こえた。どうやら防がれたらしい。
チッと舌打ちして庭に飛び降りる。
相手も追ってきたのを見て、刀を抜いた。
タイミングを見計らって勢いよく刀を突き出すが横薙に払われる。
(なんで宙空でそんな動きが出来んだよ…!)
やっぱこいつ強い
攻撃しても攻撃しても、悉くかわされ、防がれる。
しかし劣勢だというのに、三之助の口元は笑んでいた。
「うおっ!」
危ない。刀の切っ先が三之助の前髪を掠め、バック転して距離を取る。
「っはぁ……へへ、やっぱり…敵わないな…」
「そう言う割には、嬉しそうだね?」
「…あぁ」
三之助が刀を構え直して、ニカッと笑った。
「俺はお前と戦うのが一番楽しい」
「………そう」
それからの勝負は一瞬だった。
気がついたら目の前には綺麗な青空が広がり、顔のすぐ横の地面には刀が突き立てられている。
「僕も、君と戦うのは楽しいよ」
あーぁ…ごめん、みんな
「あ…三之助が持ってたんだ、巻物」
数馬がにこっと笑った。
「僕の勝ちだね」
――――――――
前編で兵太夫と平太から印を奪ったのは、雷蔵です。