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バトルロイヤル(前編)



ルールと注意事項















ダッと滝夜叉丸は駆けた。狙いは勘右衛門だ。
得意の戦輪をヒュンヒュンと指で回しながら、勘右衛門に投げつける。

ヒュウッと口笛を吹いて勘右衛門が戦輪をサッと避けた。
その隙に今度は刀で斬りかかるが、金属音を響かせて苦無で防がれる。


「なかなかやるねぇ、滝夜叉丸」

「当然でしょう。戦輪を扱わせれば学園一ですから…!」


カチカチと刀と苦無を鳴らして二人が至近距離で言葉を交わす。


「…っ…行け籐内!」

「は、はいっ!」


滝夜叉丸が怒鳴ると、籐内が反射で返事をして勘右衛門の脇をすり抜けた。


「あっ…待て籐内、危─…!」


敵チームである筈の勘右衛門が、慌てたように籐内を振り返る。
え?という表情で籐内が思わず立ち止まると、その足元の床がパカッと大きく口を開いた。


「えっ、わっ、わあああああああああああああっ!!??」

「浦風くん!!」


ザッと天井裏から降りてきた伊作が、籐内の手首を掴んで、なんとか引き上げた。
ホッと息をついた勘右衛門に、滝夜叉丸が容赦なく攻撃を再開する。


「敵チームの心配をしてるお暇があるんですか、尾浜先輩」

「あははは、ごめんごめん。でもうちの罠師のタチが悪いのは、お前の方が良く知ってるだろ?」


軽やかに攻撃をかわしながら勘右衛門が合図を送ると、廊下の天井や壁、庭からも籐内と伊作に向かって一斉に矢が射出された。


「よく作ったなぁ、こんな物…っ!」


伊作が苦笑いで籐内を後ろの部屋に押し込み、向かってくる矢を全て弾き飛ばす。


「おやまぁ、さすが伊作先輩」


そうは言いつつ、あの程度なら防がれると予想していたのだろう。
矢の攻撃が終わると同時に、喜八郎が踏鋤を振り上げた。
ふっと軽く笑って伊作が応戦する。


「君の落とし穴にはいつもお世話になってるからね。いい機会だから、ここでお返しさせてもらうよ」

「伊作先輩ほど綺麗に落ちてくれる人もいませんから。落とし甲斐があります」


そんな会話をしているすぐ下を、籐内がそろそろと通り抜けた。


「あーあー行かせちゃったか。喜八郎、六年生が相手だ…無理すんなよ。相手代わるか?」

「滝夜叉丸は嫌です」

「そっか。じゃぁまぁ、頑張れ」


綾部の言葉に滝夜叉丸がギャンギャン騒ぐが、綾部はどこ吹く風だ。
まぁ伊作先輩のことだから、二つも年下の後輩にそこまで酷いことはしないだろう






* * *






「…いい、平太。左近先輩が通ったら、その紐引いてね」

「う、うん…」

「来るよ」


空き教室でコソコソと話しながら、左近が通るのをジッと待つ。


「…今だっ」


兵太夫の声で、平太が思い切り紐を引っ張る。
廊下の向こうから何やら激しい物音と左近の悲鳴が響き渡った。


「やったぁ、だーい成功!」


どこぞの先輩のようなセリフを楽しそうに口にした兵太夫が、平太とハイタッチをかわす。
罠を仕掛けた所に行ってみると、左近が天井から伸びた紐に足をとられて、逆さまにぶら下がっていた。


「印はいただきます。左近先輩!」


くっそーと悔しそうに顔を歪める左近から印を奪う。


「あ、すごーい…左近先輩二つ印持ってる。誰か倒したんですね」

「じゃぁ…はい、平太。一つずつ!」


兵太夫と平太が上機嫌に次の仕掛け場に向かおうとした時、


「ごめんね、左近の印は返してもらうよ」


その声に背筋が冷やりとする。そーっと後ろを振り返ると…









* * *









「…こっちだ、四郎兵衛、乱太郎」

「あ、あの、食満先輩。今どのあたりですか?」

「もうすぐ分かるさ」


食満の顔は見えないが、後輩に向ける優しい声音から笑っているのが分かる。
ちなみに今の体勢はうつ伏せ。
暗くて狭い場所を、匍匐前進中である。


「乱太郎ー…大丈夫?」

「なんとか…」


食満はもちろん、委員会で慣れている四郎兵衛は平気だが、乱太郎に長時間の匍匐前進はキツそうだ。
もう随分この体勢で進んでいる…と思ったところで、不意に食満の動きがピタリと止まった。


「いたぞ」


食満が下を示して場所を開け、そこにあった覗き穴から下を見る。


「…立花先輩…」


なるほど、ここは六年長屋の真上だったのか。
すると仙蔵が口を開いた。


「…おい、いるのは分かっている。出てこい」


その声にビクッとして食満を伺うが、食満は無言で下の様子を見守っている。

一呼吸分だけその場が静まり返ると、急にバンッ!!と音を立てて、押し入れの戸が吹っ飛んだ。

押し入れの中から飛び出してきた兵助が、戸の影に隠れて仙蔵に苦無を振るう。


「ふん、やはりお前だったか」

「貴方ほどの相手を、可愛い後輩にさせるわけにはいきませんからね」

「見上げた先輩精神だな。だが、お前が相手ならば加減はせんぞ」


狭い室内で、よくもまぁあんなに暴れられるもんだ。
食満が呆れながらも、仙蔵と兵助という珍しい対戦カードをジッと見つめる。
一つ下とは言え、久々知は侮れない。さぁどうする仙蔵…


「ところで久々知。こんな話を聞いたことがあるか」

「…戦闘中、ですよ…っ!」


激しい攻防を繰り返しながらも、仙蔵が口を開く。


「昔…学園が建つ前の話だ。ここは合戦場でな、大勢の人間が死んだ。親を殺され子も殺され、自分の命も奪われた亡者どもの怨念が、ここには渦巻いている」


おいおい、何いきなり怪談始めてんだ


「新月の夜、独りで部屋にいると不意に生暖かい風がどこからか吹き込み…腐臭と共にガリガリと爪で引っ掻くような音が床下や天井から」


チラリと四郎兵衛と乱太郎を見ると、二人ともあからさまにビビっている。
確かに下級生ならば怖がるだろうが、五年にそんな話が効くわけ…


「………っ…」

「おや、どうした久々知。顔色が優れんが」

「そ…そんなこと…」


マジか


(え…なに、久々知って怪談苦手なのか?)


僅かに鈍った兵助の動きに、一気に仙蔵が優位に立つ。


「背後に誰かが立っている気配がした。振り向きたくなくても、体は勝手に振り向こうとする。するとそこには首が千切れかけた女が」

「わーわーわー!!」


兵助が半泣きで後ずさった。


(…ダメだこりゃ)


溜め息をついて、食満が下に降りる準備をし始める。
兵助が仙蔵を倒しは出来なくとも、何らかの妨害をしてくれることを期待していたが…



完全に仙蔵の勝利だった。





















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