ラビュー・ラビュー(雷+長)
放課後、図書当番の仕事の傍らで考え事をしていると、頭上から雷蔵の声が降ってきた。
「中在家先輩、何か悩み事ですか?」
「…………」
長次が表情に乏しいことは自他共に認めている。そんな長次の僅かな表情の変化に気づける者は多くない。
柔らかく笑んでいる雷蔵を見上げながら、内心で苦笑しつつ、手元の紙を渡した。
紙に目を通しながら隣に腰掛けてきた雷蔵が、合点がいったような表情になる。
「この間のアンケート結果ですか」
頷くと、雷蔵も困ったように眉を寄せる。
「うーん…これは…」
「…見事に割れたな…」
今まで図書室に置く図書や資料は図書委員会が決めていたが、今回初めて生徒にアンケートを取ってみたのだ。
結果として、低学年は娯楽用の本、高学年は実用書が占めている。
「両方買えればいいんですけど。うちの予算じゃぁ、ちょっと厳しいですね」
「あぁ…予算を全部、新刊購入に使うわけにもいかん…」
低学年の望みは叶えてやりたいが、授業のレベルが上がってきた四、五年や就職を控えた六年からのコメントは切なるものがある。
しかし図書室に娯楽用の書籍が少なく、低学年の図書室利用率が低いのも改善したいところだ。
そして、この予算では出来ることなどたかが知れている。
駄目元で文次郎に予算を上げてもらえないか頼んでみることも頭の隅に置き、長次は顔を上げた。
これ以上悩んでも仕方ないし、それほど急いた話でもない。
「雷蔵、やはり今はいい…。後で松千代先生に」
言いかけたところで、ハタと気がついた。
雷蔵が腕を組んで、うんうん唸っている。
別に取り立てて大事な話というわけでもないのに、この真剣な顔。
数回目を瞬かせると、長次はフッと微笑んだ。
(………雷蔵らしい)
2013.12.14