【昼休み(一年+月+リコ+日)】
キーンコーンカーンコーン…
4限終了のチャイムが鳴ると同時にガタガタと教科書をしまう音が教室に響く。
教師が出て行くと一部の男子は購買へ猛ダッシュだ。
そんないつも通りの昼休み。
伊月も弁当を取り出して食べようとした時、廊下からバタバタと慌ただしい足音が聞こえてきた。
「伊月先輩っ!」
バンッと扉を開けて飛び込んできたのは部活の後輩3人組。
「おー…降旗に福田に河原。どした?」
クラスの視線が若干痛いが気にせずに尋ねる。
「数学教えて下さい!」
「数学?」
「5限に小テストがあるんすけど…」
そう言って河原が数Aのテキストを見せる。
何問かは自力で解いたのだろうが、半分ほど消した跡を残して真っ白な問題がある。
(あ…ここ間違えてる)
自力で解いた問題にも数カ所間違いを見つけながら、テキストをパラパラとめくる。
「別にいいけど…まさか3人とも?」
降旗と福田を見ると、二人も苦笑いでテキストを広げて見せた。
昼休みが終わるまであと30分。
ため息の一つでもつきたくなったが、後輩の頼みに嫌な顔はしたくない。
「とりあえず河原、ここ間違ってる。降旗は…この公式に当てはめたら解けるから。福田、ただの計算ミスだ。落ち着いてもっかいやってみな」
慌てて計算を始める一年生に苦笑する。
だから落ち着いてやれって…
「伊月先輩、ここは…?」
「ここどうしたらいっすか」
「先輩助けて」
一斉に助けを求めてくる3人に流石の伊月も焦り始める。
「んな一度に言われても…えーと、ここは…こうやって……河原と降旗、別の問題やってろ」
弁当を食べるのも忘れて数学勉強会をひらいていると、ちょうど廊下に良い助っ人を見つけた。
「おーい、相田。ちょっと助けて」
声をかけるとリコがひょいっと顔を出した。
「あら、降旗くんに河原くんじゃない。福田くんも?何やってるの?」
「5限に小テストがあるんだと。暇だったら教えてやってくれねぇ?」
「ふーん…いいわよ。バスケ部がバカの集まりだと思われたくないしね」
その様子を3人がポカンと眺めている。
「……?なんだ?」
「いや…伊月先輩がカントクのこと相田って呼んでるの初めて聞いたんで…」
降旗の言葉に伊月はああ、と呟いた。
「相田だって一応女子高生だからな。部活ではケジメ的にカントクって呼んでるけど、日常生活でまでその呼び方は嫌だろ」
「伊月くん…一応って何かしら?」
「あっ…いや、違っ…」
「今日のダッシュ2倍にしとく?」
「いっ!?」
そんなやり取りを眺めながら福田が尋ねる。
「じゃぁ他の先輩たちも学校じゃカントクって呼んでないんすね。日向キャプテンもっすか?」
「んー…日向はリ」
「おっと伊月頭に蚊が止まってたぞ」
伊月のセリフを遮って突然現れた日向が思いっきり伊月の頭をシバく。
「いでっ…何すんだよ日向!」
「だから蚊が止まってたんだよ。オラ一年、あと10分で休み時間終わりだぞ。いいのか?」
日向の言葉に青ざめながら3人がテキストにシャーペンを走らせる。
「俺が河原教えるから伊月は福田な。……カントクは降旗」
「なんで今カントクって呼んだの?」
「黙れ伊月。あとニヤニヤすんな」
「ていうか日向くん、いつから聞いてたのよ」
「この状況見たら大体何してんのか見当つくだろ」
「キャプテン数学出来るんすか?」
「少なくともお前よりはな!二年舐めんなよ!」
ほんとは数学なんか嫌いなんだけど
(これ以上伊月に余計なこと喋られたら困る)
ジロッと睨むと、伊月がニッコリ笑ってVサインを送ってきた。
「うん…後でシバく」
「へっ!?」
クラッチタイムに入った日向から河原が解放されるまであと10分。
そんなある日の昼休み。
ーーーーーーーーーー
最後の「へっ!?」は河原くんです
prev - next
back