【昔話(金+水)】








「あの、小金井先輩は…どうしてバスケを始めたんですか?」


黒子にそう聞かれたのは、部活の休憩時間だった。
唐突な質問に少し驚いたが、飲んでいたスポーツドリンクから口を離し、事も無げに答える。


「オレ、水戸部と中学一緒なんだよ。水戸部がバスケしてるの見て、面白そうだなーと思ってさ!」

「…面白そうだから…ですか」


少し考えている様子のこの後輩が、バスケの在り方について悩んでいるのは知っている。
普段ならバスケを始めた理由についてはそこで終わるが、悩み多き後輩のために、もう少し喋ってみようと思った。


「それだけじゃないんだけどな」

「え?」

「ちょっと、昔話」












***








水戸部と出会ったのは、中学3年生の時だった。
スポーツ店でテニス用のシューズを買おうとして金が足りず、困っていたところを助けてもらったのだ。

水戸部は喋るのが得意ではないとのことだったが、仲良くなるにつれて、表情を見れば大抵のことは通じるようにまでなった。


『なぁなぁ水戸部!今度バスケ部、うちの体育館で練習試合するんだろ?観に行っていい?』

『……………』


どこからそんな情報を仕入れてきたのか、嬉しそうに詰めよってくる小金井に、水戸部は困ったように微笑んだ。


『だってオレ、水戸部がバスケしてるの見たことねーし!…え?……下手だとか、そんなん関係ないって!』


ニパッと笑ってみせると、今度は水戸部も嬉しそうに頷いた。






















そして、バスケ部の練習試合当日。

テニス部の練習が終わってから急いで行ってみると、試合は丁度第2Qが始まろうとしているところだった。
今のところ点差は拮抗している。

ホイッスルが鳴り響き、選手たちがコートへと入っていった。その中に水戸部の姿が見える。


『水戸部…っ』


声を上げようとたが、思わず飲み込んだ。
コートに入る水戸部の表情は酷く鋭く、闘志に満ち溢れていた。
普段教室で見せる優しい表情からはかけ離れた、真剣な顔で試合に臨む水戸部に息を呑む。


(あんな顔、するんだ…)


観戦していると水戸部は下手どころか、なかなかどうして上手いように思える。
素人ながらに手に汗を握りながら展開を見守っていると、だんだん点差が離されてきた。
選手たちの表情が厳しいものになっていく。


『あっ…!』


体育館が異様な熱気に包まれていく中、ボールを持った水戸部が、ダブルチームに捕まった。
みるみる歪んでいく水戸部の表情に、気付いた時には、既に声は飛び出していた。


『水戸部!!頑張れっ!!!』


その声が届いたのかは分からない。
分からないが、水戸部がギッと相手を睨み付け、怒濤の勢いで抜き去った。
苦しい体勢だったが、そのまま何とかシュートを決めると、味方チームがワァッと盛り上がる。


『っしゃぁ!!』


グッと拳を握って叫ぶと、不意に水戸部の目がこちらを向いた。

その顔は、いつも教室で見せる、いつもの水戸部の優しい顔で

ゆっくりと、水戸部が拳を掲げてみせた。


(…あぁ…)






ちゃんと、届いてたんだ










ニコッと笑う水戸部に手を振り返して、もう一度「頑張れ」と言うと、水戸部はコクリと頷いて背を向けた。

その後も試合は白熱し、ついに第4Qを迎える。
残り時間も僅かになってきたところで猛攻をかけるが、相手も負けじと点を取り返し、自分がテニス部であることも忘れて夢中で応援した。




そして、ブザービーターが鳴り響く。












『………っ…!!』


水戸部が拳を振り上げた瞬間、チームメイトたちが爆発したかのような歓声を響かせた。
相手チームも「やられた」と言いながらも、やりきったような表情だ。

小金井はというと、弾けるような笑顔を見せる水戸部に、少なからず驚いていた。
なんだか今日は、水戸部の初めての表情をたくさん見た気がする。


『バスケ、かぁー…』


未だチームメイトと肩を叩きあっている水戸部をチラリと見やった。















オレも、





















***









「…水戸部みたいになれたらなーなんて、そう思ったわけだよ」

「………」

「あり?水戸部、聞いてたの?」


いつの間にか傍に来ていた水戸部が、困惑したように小金井と黒子を交互に見やる。


「んー?そんな話、初耳だって?そりゃそうだよ、今黒子に初めて話したんだから」

「小金井先輩は、水戸部先輩に憧れてるんですね」

「そーそー!バスケしてる時の水戸部、かっこいいもん!」

「………っ…」


顔を真っ赤にして小金井をペチンと叩いた水戸部に、小金井はニャハハと笑った。




















照れんなって




















2013.12.7







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