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 言葉

※9巻ネタバレ?






















「いい天気。旅にはうってつけだ」
『本当に行っちゃうんだね…』
「ああ。俺は浮遊する者だからな。此所にずっと留まることはできない」

北ブロックの小高い丘の上。私とネズミは向かい合って立っていた。
紫苑はいない。きっと火藍と共に家にいるのだろう。

『あのね、最後に言いたいことがあるの』
「なんだ?」
『えっとね…』

ネズミは此所からいなくなる。
長く、果てが無い旅に出る。
だから言わなくては。最後のチャンスなんだから。
すっと息を吸い込む。

『大丈夫?』

「は?」

『いつも一人で抱え込んで、一人で行っちゃう』
ー伝わって。
『少し心配だし、寂しいな…』
ー伝わらないで。
『気が向いたらでいいから、頼ってほしい』
ー・・・伝わって。

いきなりの心配の言葉にネズミは面食らっている。
けれどすぐにいつもの微笑を浮かべた。

「言いたいことはそれだけか?」
『う、うん』
「そうか。なら俺からも、日向に伝えたいことが」
『なに?』

「有難う」

『え?』

「いつも気にかけてもらっているな」

「心配かけてすまない」

「てっきり、お前は俺がいなくても平気だと思っていた」

「今は別れてしまうが、必ず戻ってくるから」 

「留守を頼む」

言い終わるや否や、ネズミはそっと私を抱きしめた。
これは、まさか…伝わった?

『伝わらないと思ってた』
「どこかの天然ぼうやと一緒にしてもらっちゃ困るな。
 解るに決まっているだろう」

ネズミの腕の力が強くなる。それでも加減してくれているのがわかって、私は頬を緩めた。

でも、幸せな時は長く続かない。

『あ…』

ネズミは私をはなすと、一歩距離をおいた。
別れの時がやって来た。
泣かないで見送るって決めていたのに、やっぱり我慢できそうにない。
ポロリと一粒、こぼれ落ちる。
ダメなのに。ネズミが困るって分かってるのに。
思わず俯く。

「再会を必ず」

そう言って私の頭をなでたネズミはクルリと後ろをむいた。
どんな表情をしていたのだろう?
俯いていた私は彼の最後の表情を見ることができなかった。
歩き出した彼が振り返ることはない。
わかっていても、私はその背中が見えなくなるまで動かなかった。


(すきです)
(あいしている)
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2012.10.06

加筆修正 2012.12.23
2013.04.14




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