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 近くて遠い

3年生は全員部活を引退した秋。私と宍戸が入っている校外活動委員会はまだまだ活動中だ。
部活が終わって勉強に専念できるかと思えば、委員会活動が忙しくてなかなか早く帰れない。
家が近い女の子と帰るのではなく、委員会が一緒の宍戸と帰ることが最近の私の日常になってきている。
べつに嫌な訳じゃない。むしろ嬉しい。
彼としゃべるのは楽しいから。
もしかしたら好きなのかもしれないな…と、最近になって思いはじめた。
思いはじめたら、止まらなくなった。
宍戸が、好き。
だから思いはじめたのではなく気がついたと言ったほうが正確なのかもしれない。
今日も今日とて、委員会活動で完全下校時刻ギリギリまで残っていた私たちは2人並んで帰り道を歩く。
中学生とは不思議なもので、男女2人が並んで歩いていると付き合っていると思うらしい。
部活帰りの後輩からの冷やかしの声が気に障る。好奇の視線も。
なかなか慣れるものではない。

本当にみんな止めてほしい。
「付き合ってるの?」だの、「ラブラブじゃーん」だの。
ただ一緒に帰っているだけなのに。
ただそれだけの関係でしかいられないのに。
周りから言われれば言われる程、私は彼に好きと伝えられなくなるのに。
だって。
周りに乗せられたみたいじゃない。冷やかされてるうちにその気になっちゃた、みたいな。
実際はもちろん違うのだけれど。
それに2人してあれほど「付き合ってない!」って言っておきながら今更「好きです」なんて絶対に言えない。
彼が恋愛に興味ないのはわかってる。
私のことをただ友達とみていることだって。
だから今のままでいい。
委員会が同じだという理由だけで繋がり、一緒に帰る関係で。

「わーカップルだー。羨ましい〜」

あぁ、また。
自転車で追い越しながら聞こえよがしに冷やかす後輩達。
人の気も知らないで。

「ったく。今の後輩らは…」
『あはは…。スルーだよ、宍戸。スルースキルは大事だよ!』
「そうだな」

でも。
狡いかもしれないけど、周りにカップルと見られて嬉しくないといったら嘘になるんだ。
けれど、宍戸にこの気持ちを知られる訳にはいかない。
だから

『スルースッキル〜っ』

わざと上げたテンションと大きな声で、
少し赤い顔も、
この心も。
今日も私は誤摩化し続ける。

近くて遠い
(2人の間隔)
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2012.10.28



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