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 自殺の方法

いつもと変わらない水曜日の放課後。白石は、部活のためにテニス部の部室へと廊下を歩いていた。
窓からカラっと晴れた冬空を見上げ、今日も平和だとぼんやり考えながら部室のドアに手をかける。

その時。

『うわぁぁぁ謙也のバカぁぁぁ!!』
「ちょぉ日向、落ち着けって!俺が悪かった!」

聞こえてきた2つの五月蝿い声に思わず眉をひそめた。声の持ち主は見なくても分かる。同じクラスの日向と謙也だ。
できることなら回れ右をして何事も無かったかのようにしたいが、残念ながらすでにドアを開けてしまった。引き返すことは出来ない。白石はため息をつきながら2人に声をかけた。


「お前らどうした?」
「お、白石!とりあえず日向をとめてくれ!」
「いや、止めるっていっても…」

白石と謙也の目の前、部室の奥には日向が仁王立ちしている。そして、その手にはマッチ。見るからに危険な光景だ。

「日向、どうしたん?」

ヘタに刺激を与えないようにやんわりと問いかける。しかし、今の日向は冷静に話を聞ける状態ではない。

『蔵には関係ない!っていうか此処からでてって!今から軽く部室を爆破するから!!』
「「はぁ!?」」

白石と謙也の声がみごとにハモる。
爆破とはなんと物騒な。というか本当にやったら笑い事ではすまない。

「ちょ、日向、考えなおしてや!」
「まさか日向、本気やないよな?」

口々に訴えかけるが日向はマッチを離そうとしない。そして後ろから大きめの缶を引っぱり出してきた。どうやら部室のストーブのための灯油缶のようだ。

『この中に火をつけて自殺してやる』

呆然と立ち尽くす2人の耳に、冷酷な日向の声とシュッとマッチをする音が聞こえる。絶体絶命だ。
このまま日向が灯油を少しでもこぼし、そこに火が点いたマッチを落とせば爆破とはいかないが簡単に部室が全焼するだろう。

『みんな燃えちゃえええぇぇ!!』
「「うわぁぁぁぁ!?」」

白石と謙也の必死の制止も聞かずに、日向はマッチを高く持ち上げ



…そのまま灯油の缶の中に落とした。




瞬間、ジュっという独特の音が響く。
 
「「…は?」」
 
思わず2人は気の抜けた声をもらす。
日向の方を見ると、体を小刻みに震わせていた。

『なんで!?なんで消えちゃうのぉ!?』

少し涙目になりながら、なんどもマッチをすっては缶の中に落とす。しかし、もちろん結果は変わらない。
そんな日向に込み上げる笑いを噛み殺しながら、二人はすばやく行動した。
日向を危険物から引き離すべく、白石が後ろから抱きしめる形で体を押さえ、謙也がマッチを奪い取り灯油の缶を手が届かない場所へ移動する。
もはや#日向には抵抗する気力さえ残っていないようだ。

「ククッ…アハハハハ!日向おもろすぎやろ!」
『う、うるさい謙也。なんで?なんでこうなっちゃうの…?』
「謙也。あんまり日向を挑発するようなことしたら駄目やで。あと日向は理科の勉強きちっとせなアカンな」

謙也が日向をからかい、日向がそれに対抗する。
結局は普段と変わらない光景が繰り広げられていることに、白石は無意識に口角を上げた。


自殺の方法
(そういえば、この事件の原因はなんやったんやろ?)


ネタは塾の授業から。灯油自体って燃えないんですね。知らんかった…←
2102.08.04



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