小説 | ナノ

「あなたどうしたのよその顔」
「余所見をしてたら後ろから体を押さえ込まれて前にいたやつにボコボコに殴られた」
ソファに寝転がってこちらに靴底を見せ付けているモスカートは、不機嫌そうな声音でそう語った。虫の居所が悪いらしい。
要するに任務でヘマしたわけね、と敢えて煽って返すと泣く子も黙る目付きで私を睨み付けてくきた。頬には分厚いガーゼがぴったり張り付いていて、そこから浅黒くはみ出た素肌が痛々しい。
「で、それでよく助かったわね」
「バーボンが助けてくれた」
「なるほど、命の恩人ってわけね」
「一人でも平気だった」
「はいはい、そうなのね」
むくりと上半身を起こした彼女は恨めしそうな目で私を見上げる。

注意力散漫。
それが彼女を形容するのに最もふさわしい言葉だった。出先の任務でつまらないミスを頻繁に犯しては、その度傷だらけになって帰ってくる。毎度の事ながら生きて帰ってくるのが不思議な程で、幸運もここまで連続すれば才能なのではないかと感動すら覚えてくる。
実力もあるにはあるのだが、とにかく詰めが甘い。いつもどこかに怪我をしている。

女が顔に怪我なんかしてどうするのよ、と小言を言えば「出会いもないのにそんなの気にしてたって虚しくなるだけだよ」とむくれるのが常で、改める姿勢もいまいち伺えない。
最近では彼女が任務に赴く度、生きて帰ってくるかどうか賭け事をするのが幹部の中では恒例になってきている。

ポケットから取り出した煙草にポッと火をつけ、深く吸い込んだ息をゆっくりと吐き出す。するとモスカートはわざとらしく咳払いをした。
「そのクソ煙草やめて」
「上司が煙草を吸うのくらい我慢しなさい」
「一丁前に社会人みたいなこと言う」
「あなたには私がニートにでも見えるの?」
「まさか、ニートは無害だ」
ああ言えばこう言う。つくづく可愛いげがない部下を持ってしまったものだと、溜め息を吐きたくなる。
「そういう憎まれ口叩いてばかりいると今度死にかけても誰も助けてくれないわよ」
「いいよ別に、ベルモットが助けてくれるし」
「…どうして私が助けると思うのよ」
「だって私が生きて帰らないとジン達との賭けに負けちゃってベルモット大損だよ?」
「………」
「それに上司は部下を助けるものだからね」
「どの口がそれを言うのよ…」

本当に。生意気な部下は持つものじゃない。
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