小説 | ナノ 「ねえ、カップル半額だよ」
ピタリと突然立ち止まったナマエに、余所見をしながら後ろを歩いていたフィンクスは派手にぶつかり体制を崩した。おい!と怒鳴りながらも、食い入る様に何かを見つめるナマエの視線に誘導されフィンクスもそちらへ顔を向ける。示された先には派手にデコレートされた看板が、よくぞ見つけてくれました!とばかりに存在を主張していた。大きな文字でカップル半額!と書かれた隣にはこれまた実寸の何倍も大きくデデンッと拡大されたパフェの写真。
「ねえ、半額だって」
ナマエは微動だにせず先程と同じ言葉を繰り返す。
「馬鹿だなナマエ、食い逃げしたらタダなのに」
「…やだやだ、これだから野蛮人は」
「じゃあ定価払って食やいいだろ」
「馬鹿だなフィンクス、ほら、左手見せてみて」
漸く看板から視線をフィンクスに移したナマエは、ほら早くと左手を催促する。
「?、おう、こうか?」
差し出されるや否や、ナマエは獲物を射止めるが如く素早くその手を掴んだ。捉えた手を逃すまいとギュッと固く握りしめる。抜かり無い、恋人繋ぎだ。手の甲には血管が薄く浮かんでいる。ギョッと泡を食ったフィンクスは「バカ、気持ちわりいからやめろ!」とブンブン手を振っている。しかしこうなったナマエはスッポンよりもしつこかった。
「だって、よく見てフィンクス、そこに世界一美味しいって書いてある」
「安っぽい売り文句じゃねえか…!」
「でも、イチバンなんてそうそう無い」
「…………、しつけえ!」
耐え兼ねたフィンクスが勢い良く腕を振り上げた。グルンとナマエの視界が回転する。見事…。ナマエは綺麗な弧を描き、宙を舞っていた。遠心力には逆らえなかったのか固く握っていた筈の手は離れ、軈てドスンと鈍い音が辺りに響いた。
大胆に吹っ飛ばされたナマエは大の字に空を仰ぎ呆然としていた。咄嗟に念を使っていなかったら頭が割れていたに違いない。

「何してんの…」
聞き慣れた声が上から降ってくる。大空を背景に覗き込んでくる人物を凝視して、ナマエは「あっ」と声を漏らした。ピンクの髪に黒のジャージ姿。ナマエは嬉々として勢い良く上半身を持ち上げた。
「マチだ」
ワッと歓声をあげたナマエは既にスカッとする程綺麗さっぱり直前の出来事を忘れている。
「任務に出掛けた切りなかなか戻って来ないから迎えに来たんだけど…」
呆れた視線でマチはナマエとフィンクスを交互に見やった。納得行かない不名誉な批難に「俺じゃない、コイツだ!」とフィンクスは必死に弁明を始める。ナマエはそこで漸くパフェの存在を思い出した。
事の子細を聞き終えるとマチは大きなため息を吐いて額を抑えた。
「馬鹿なの…?アンタたち」
「フィンクスは多分そう」
ゴンッ。固い拳がナマエの頭の上に落とされる。
「痛い!」
「うるせえ!」
「ちょっと…」
また小競り合いが始まりそうな空気をいち早く察知したマチが声を凄めて仲裁に入る。一度は怯んで黙った二人だが、火花が散る睨み合いは止むことを知らない。
「いいもん、マチと行くもん」
「…はあ?」
突然の指名にマチは眉を怪訝に顰める。
「ああ?ふん、勝手にしろ!」
売り言葉に買い言葉…。話は早急に展開していく。事の成り行きに遅れを取るマチを他所にフィンクスはさっさと歩き出してしまう。
肩で風を切る背中が遠ざかるのを見送ると、ナマエはひったくる様にマチの手を捕まえて大胆に店のドアを開けた。
後ろから小さな溜息が聞こえたが、気にしない。
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