青の祓魔師

兄さんはぼくの大好きな人。
ぼくと同じ双子なのに、ぼくなんかよりもずっとつよくて、やさしい、たいようみたいな人。

「おれ、雪男のこと大好きだぜ!」

そう言ってキラキラかがやく笑顔を向けてくれる兄さん。
ぼくはそう言ってもらうのがすごくうれしかった。
とってもうれしかった。

ぼくも兄さんのことが大好きで、それにその言葉が弱虫で泣き虫なぼくに小さな自信をくれる。

「ぼくも、兄さんのことが大好き」

だからぼくもいつもそう返す。
その言葉があれば、誰にイジメられても、怖いアクマが寄ってきても、何もこわくなんてない。
何も、こわくなんてないんだ。

















「きもちわるい」

だれかがそう言った。
それはいつものいじめっ子たちの言葉で、いっぱい涙をながすぼくを見て笑ってそう言うんだ。

「お前、兄貴にかばわれてばっかじゃん」

「いつも一緒にいるしな」

「おれ知ってる。それ“ブラコン”っていうんだろ!」

「きもちわりぃー」

ケラケラ笑ってそう言う。

きもちわるい?

ぼくが?

兄さんが?

ただふつうに仲良くしてるだけなのにきもちわるいの?
そう思うと、ぼくはなぜかだんだんはずかしく思えてきた。
たしかに、ぼくと兄さんはいつも一緒だった。
ぼくはいじめられっ子で、それを兄さんがいつも助けてくれる。
ぼくを大好きといってくれて、ぼくを守ってくれる。

「き、きもちわるくなんか…」

「うるせー。いっつも二人ベタベタして、きもちわるいんだよ!」

ベシャリとドロ団子を投げつけられた。
痛い、けど痛かったのはもっと別のばしょだった。

「あいつも、ほんとはお前みたいなやつ嫌いなんじゃねえの?」

またケラケラ笑う。
するとたまたま近くにいたアクマもぼくを見て一緒に笑っていた。
いじめっ子たちと一緒に笑うんだ。

兄さんが、ぼくのことが嫌い?

それはすごく嫌だった。
だって、ぼくは兄さんのことが大好きなんだ。
ぼくを大好きって言ってくれて、本当にうれしかった。

兄さんがもしもぼくのことを嫌っていたら。
あの“大好き”っていう言葉がウソだったら。

とっても、かなしい。

とっても、つらい。

そう思うとすごくムネが痛くなる。
すると「雪男!」って叫んで助けにきてくれた兄さん。
ぼくはただ泣いて小さくなっていることしかできなかった。
ムネが痛いのをガマンしながら。

「もう二度と雪男いじめんな!!」

そう言うときはたいてい兄さんがいじめっ子たちを追い払ってくれている。
ぼくはようやく顔を上げて助けに来てくれた兄さんの姿をみた。

兄さんはボロボロだった。
いじめっ子たちにやられたたくさんのキズ。
鼻から血がでてるし、ひざやほっぺからも血がでてる。
服もちょっとやぶけていた。

ぼくのせいだ。
ぼくのせいで兄さんはキズだらけになっていた。

「に、にいさん…」

「ほら、たてるか?」

ぼくよりもずっとケガをしてるのに、ぼくのしんぱいをしてくれる兄さん。
さしだしてくれた手をとろうとしたけど、いじめっ子たちの言葉が頭に浮かんだ。



“あいつも、ほんとはお前みたいなやつ嫌いなんじゃねえの?”



もしもそれが本当だったら。
すごく、こわい。

「雪男?」

「な…なんでもないよ…」

ぼくはじぶんの力で立ち上がった。
これ以上、兄さんに迷惑をかけちゃダメだ。
せめてこれぐらいは自分でしないと。

「雪男、どうしたんだよ?」

「だ、だいじょうぶ。何もないよ」

しんぱいそうにぼくを見つめてくる兄さん。
やっぱり兄さんはやさしい。

だけど、あの子たちが言っていたあの言葉がまた浮かぶ。



“きもちわるい”

“あいつも、ほんとはお前みたいなやつ嫌いなんじゃねえの?”



「に、兄さん…」

「なんだ?」

ニコニコ笑ってくれる兄さん。
ぼくのノドはカラカラになっていて、声もかすれてる。

ぼくのこと好き?

そう聞きたい。
だけど、こわい。

「な、んでもない…」

ぼくはあわててそっぽを向いてごまかした。
だけど兄さんは眉間にシワを寄せている。

「なんだよ、ハッキリ言えよ!」

兄さん、イライラしてる。
それが分かるとぼくはよけいにぼくが嫌になった。

ぼくは兄さんに迷惑をかけてばっかりだ。
いつもいつも、兄さんはぼくのせいでケガをして、ボロボロになっている。
それがぼくのせいだと思うとすごく嫌だった。
とってもとっても、嫌だった。

どうしてぼくはこんなのなんだろう?
もっと、ちゃんとつよくて、あんなこと言われない弟になりたいのに。

「雪男!」

ぼくがグズグズしてなんにも言わないから、兄さんはもっとイライラしてるみたいだった。

もう本当に嫌だ。
ぼくは、こんなぼくになりたくないのに。
兄さんに嫌われたくないのに。
「う…うわああああああん!!」

「ゆ、雪男!?」

ガマンできなくて、ぼくはとうとう泣いてしまった。
兄さんはとつぜん泣き出したぼくにおどろいてあわてていた。

「なんで泣くんだよ?どっか痛いのか?それともおれがデッカイ声だしたからか?」

「ううっ…ごめん。ごめんね、にいさん」

「なんだよ、なんであやまるんだ?」

ボタボタと大粒の涙がぼくの目からあふれて止まらない。
止めなきゃ、兄さんにこれ以上迷惑をかけたくないのに、嫌われたくないのに。
涙を止めるために袖で拭うけど、そうすると目が痛かった。
「やめろ」と兄さんがその手をつかんで止める。

「それすると痛いからな」

両手でぼくのほっぺにやさしくさわると、チュッ、とぼくの目の下にキスをしてくれた。
次はほっぺ、その次はおでこ。

「に、にいさん…?」

「おまじない」

そう言ってまた目の下にキスをしてくれた。
やさしい、やさしい、兄さんのキス。
それはむずがゆくて、あったかい。
唇がはなれて、兄さんは僕を見てキラキラかがやく笑顔を向けてくれた。

「こうするとな、止まるんだってさ」

「………う、うわああああん…」

「ええっ!?効かないのか!?」

うれしい、うれしいんだよ。
だけど、すごくくるしい。

「ひっ、ひぐ…けほっ、けほ…」

「せきまで出てるぞ。大丈夫か?」

あったかい手で僕の背中をさすってくれる。
涙はまだ止まらない、けどそれでも何とか涙も咳も止めたくて何度もツバを飲み込んだ。
だけどそれでも止まらない。

無理やり止めようとするとよけいにくるしくて、さすってくれる背中からじんわりと汗が出てきた。
くるしい。

「雪男、無理すんな」

「だって、だって…ごめん、ごめんね兄さん」

「だから何をあやまってんだよ?」

まったく分からないと兄さんは困った顔をする。
それでもぼくの咳が止まるまで、ずっと背中をさすってくれた。
しばらくするとぼくの咳も止まってだいぶ楽になって落ち着いた

「…ごめんね、兄さん」

「だからなにが?」

「…いつも、ぼくは兄さんに迷惑かけてばっかりだ」

「どこらへんがメイワクなんだよ?」

「どこらへんって…ぼくのせいでいつもボロボロだし…」

「なんでだよ!?弟助けるのは当たり前だろ!」

「でも…」

「でももけどもねえ!!おれは兄ちゃんだから、お前が弟だから助けるんだ!」

「…うん」

ぼくはうなづいた。
うなづいたけど、ぼくの心はまだくらい。

弟だから。
それじゃあ、もしもぼくが弟じゃなかったら?
それでも兄さんは一緒にいてれくた?
ぼくを大好きって言ってくれた?
それともぼくのこと嫌いになってた?

「雪男!」

バチン、と両方のほっぺを叩かれた。
痛い、だけどそれよりもおどろいたほうが大きかった。

「まだ何か言いたいことがあるんだろ?」

「…ないよ」

うそだ。
本当はあるんだ。

ぼくの声はふるえている。
叩かれたせいなのか、それとももっと別のもののせいなのか。

「うそつけ!兄ちゃんはすぐに分かるんだからな!」

「…………にいさん」

声はもうほとんど涙声だった。

「ん?」

「ぼくのこと、好き…?」

「おう!大好きだぞ!」

「うそじゃない…?」

「うそじゃねえ!」

「ぼくが“弟”だから、無理して言ってない…?」

「無理なんてしてねえ!!っていうか、嫌いだったら好きなんて言わねえよ!」

「ぼくってきもちわるい…?」

「なんでだよ?全っ然きもちわるくねえ!」

「だって、いつも兄さんと一緒で…きもちわるいって…」

「雪男は、おれと一緒にいたくないのか?」

「え…」

兄さんはぼくの顔をのぞき込んで不安そうにして見つめていた。
ぼくの気持ち、僕の気持ちは。

ぼくを守るためにいつも全力で走ってきてくれる兄さん。
ボロボロになっても、それでも絶対に来てくれる兄さん。
やさしくて、あったかくて、たいようみたいな、こんな弱虫なぼくを好きって言ってくれる兄さん。

そうだ、ぼくは…ずっとずっと

「いっしょに、いたい…」

また涙がブワリと出てきた。
けどこれはかなしいだとか、つらいとかの涙じゃない。
兄さんも次はおどろいてあわてたりはしなかった。

「だったら気にするなよ!」

ギュッとぼくの手をにぎってくれる。
あったかい兄さんの手。
それはなんだかすごく安心した。

「ほら、もうあいつらに何言われても気にするな!」

「うん…!」

「おれがお前を嫌いになるなんてこと、絶対にないんだからな!」

「うん!」

ぼくはにぎってくれた兄さんの手をにぎりかえした。

「それじゃあ、帰ろうぜ!」

父さんが待ってる。
そう言って兄さんは手をつないだままグングン前へ歩いて行った。

「ねえ、兄さん」

「んー?」

「ぼくも、何があっても兄さんを嫌いになることは絶対にないから」

その言葉に兄さんはちょっとだけビックリしたみたいで、目をまん丸くしてた。
だけどちょっとすると、「へへっ」と照れたようにして笑う。

「知ってる」

うれしそうに、兄さんはそう言った。







あったかくて、やさしくて、大好きなぼくの兄さん。
これからもずっと大好き!



























2011/05/28
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