青の祓魔師


あいつの希望通り夕食はカレーにしてやった。
けど最近、雪男は忙しいだとかなんだとかで一緒に飯は食ってねえ。
顔が合わせづらいから助かるけど、同時になんか、味気ない。
一人の飯は美味いはずのカレーが三割減になってしまう。
いや、クロがいるからきっと俺はまだマシだろう。

雪男は一人で飯を食ってるのだ。
三割減どころの話ではないんじゃないんだろうか。
けどだからといって今はまだ顔が合わせづらい。

俺が課題に悩んでいるふりをしてうんうん唸っていると、夕飯を食い終えた雪男が部屋のドアを開けたのが分かった。

「…美味しかったよ」

「あー、そー…」

しまった。ついいつもの癖でそっけなくしてしまった!
怒っているだろうかと俺は焦った。
まだ後ろにいる雪男は話しかけてはこない。
それがちょっと悲しかった。

やっぱり、ここは俺から謝った方がいいんだろうか。
なんたって俺は雪男の兄ちゃんなんだし!

そう決心して立ち上がろうと椅子を動かす。
同時に可笑しな悲鳴が聞こえた。

「あっ、わりぃ」

どうやら背後にいた雪男の足を轢いてしまったみたいだ。
地味に痛そう…。

「大丈夫か?タイミング悪いな〜、お前」

「………」

それ以降、雪男の機嫌はさらに急降下。
えっ、なんで?俺何かした?

雪男は一言も話してくれないし、俺はただでさえ気まずいのにさらに気まずくなって苦しい。
もしかして、足の事で怒ってんのか?

そのまま雪男は不機嫌オーラのまま無言で風呂に向かっていった。
課題で悩む俺と寝ているクロだけになってやっと一安心。

「はあ…どうすっかなぁ…」

ああ、ため息が出るのも仕方がない。
なんたって、あの弟様を怒らせたんだから。
怒ったら超怖い。
話しかけるなんて出来やしない。

だから俺は仕方なくあのノートを取り出すのだ。
さて、なんと書こうか悩みだす。

「…はいけい、ひねくれた弟さま」

これはせめてもの仕返しだ。
あのひねりにひねくれた弟め!

ゆっくりとペンを進ませた。


次の日の昼、俺はちょっとドキドキしていた。
教室で雪男が鞄を探るたびにドキドキしていた。

俺が朝、弁当を作っているとき、雪男が席を外した瞬間に忍ばせたあのノート。
いつ気づくのか、気づかれるのか。
なぜか妙にドキドキしていた。

ドキドキしながらも雪男に背を向けて気配を伺っていると、なんだかムカツク声が。
それは雪男に群がる女子の姿だった。

「奥村君、今日のお弁当なにー?」

わざとらしい、甲高い声だ。
ああああ、ムカツク。
女子にもムカつくけど、雪男にもムカつく。
なんであいつはあんなにモテるんだ。
俺にもちょっとは分けろよと思うと同時に、雪男に近づく女子の姿にイライラした。
さっきまでのドキドキなんて嘘みたいだ。

あー、ダメだ。
腹立つ、すっげー腹立つ。

女子と触れ合えば触れ合うほど、俺の中にどろっとしたものが生まれる。
それは女子になんだか雪男になんだか…。

チラリと雪男を見ると、普段と変わらぬ愛想の良い笑顔。
とりあえず俺は腹が立って、あのケンカの事に関しては絶対に謝らねえと誓った。

「奥村君、どうしたの?」

女子のその声に俺はドキリとした。

「…いえ、別に」

なんとなく分かった。
気が付いたのだ。あのノートに。

俺の心臓はまたドキドキしだすけど、機嫌が悪くて知らないふりを続ける。
すると雪男は女子に断ってから一目散に教室から出て行った。
しっかりと鞄を持って。

「あっ、奥村くーん!」

「私も行くー」

女子たちも雪男の後を追う。
なんて積極的かつ行動力なんだと思わず感心してしまう。

「…雪男のバーカ」

その言葉を向けた相手はもういない。





塾も終えて、部屋でまったり。
なんてことは出来そうにない。

なんたって俺には夕飯の準備と塾の課題があるのだから。
けど、やっぱりそこには雪男の姿はない。

「…あいつ、わざとかよ」

チッと舌打ちをする。
きっとあいつはわざと任務をいれて忙しくしているのだ。
ケンカする前はもっと任務は少なかったはずだ。

「お前だって、そう思うよなー」

そう言ってクロの頭を撫でてやった。

“ゆきおがしんぱいなんだな、りんは!”

そう言ってすり寄ってくる。

「ば、ばか!俺は心配だなんて…!」

“おれも、ゆきおがしんぱいだ”

ニャーと鳴いてクロはそう言った。
こいつはとても素直だ。
俺とは違って。

「…あーあ、なんか…辛い」

それだけを呟いて俺は天井を仰ぐ。
けどこうしていても仕方がないと、またしんどい課題をするために鞄の中を探った。

「……あっ」

ノート。
あのノートが入ってる。

「あいつめ、マネしやがって…」

それを取り出して、ノートを開いた。






拝啓、タイミングの悪いお兄様

あのカレーというチョイスはただ食べたかっただけです。
刺身もいいと思ったけど、そういう気分じゃなかったから。

足の件については、お互いタイミングが悪いということで。
ちょっと怒っていますが、もう怒ってません。

しばらく置いておいたカレーは美味しいから、今日の夕飯も楽しみにしています。


そして買い物の件ですが、ギリギリいけそうなので買ってきます。
けど、もしもこれに気が付かなかったらどうする気だったのかが疑問です。
せめておつかいぐらいはちゃんと言ってください。






どうするか、なんて何も考えてなかった。
確かに、このノートに気が付かれなかったら、おつかいも返事もまたさらに後になっていただろう。

「気づいたんだからいいじゃねえか」

そう愚痴って、ノートを置いた。
そしてまたペンを取る。

「…なーにが、“お互いタイミングが悪いということで”だよ。大人みたいな対応しやがって!」

こうなったらとことん、このノートで言いたいことをいってやろうと。

「今度はお前から謝れよな!」

俺はもう、別の事についてだが謝ったぞ。
もう一回とか、俺は嫌だ。
なんか嫌だ。

こうやって俺から謝ったら、もしかしてあいつも謝ってくれるんじゃないかと思ったが、どうやら甘かったようだ。
っていうか、俺はあのケンカの事に関して、原因を覚えていないからどう謝ればいいのか分からないのだ。

「…クソッ、仲直り、してーよ」

けどそれすらもどうすればいいのか分からないのだ。







2011/05/04
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