青の祓魔師兄からあのノートを貰った日の夕飯は希望通り、カレーだった。 とりあえず僕の希望とやらを作ってくれたのだから、何か味の感想を言うべきだろう。 けど僕が夕飯を食べるとき、兄さんの姿はない。 ここ最近僕が忙しくて時間が合わないというのもあるけど、実際は顔を合わせづらいからだ。 けどやはり感想ぐらいは伝えようと夕飯を終えて部屋に戻ると、課題と睨めっこをしている兄さんの背中。 「…美味しかったよ」 「あー、そー…」 そっけない。 喧嘩をしてからいつもこんな感じだ。もしかしてまだ怒ってるのだろうかと少し不安になる。 怒っているとすれば、あまり話しかけてほしくはないだろうし、僕もそれ以上は何も話さなかった。 けど、さっき褒めた通り、兄さんの作ったカレーは本当に美味しかった。 そろそろ謝るべきだろうかと考える。 「に、っ―!」 「あっ、わりぃ」 兄さんの肩に触れようとした瞬間、兄さんが椅子を動かしたのだ。 そのせいで背後にいた僕の足の子指が椅子に踏まれ、地味に痛い。 せっかく謝ろうかなと思った時に。 「大丈夫か?タイミング悪いな〜、お前」 悪意の無い言葉。 だがなぜか無性に腹が立つ。 前言撤回。僕は絶対に謝らない。 足の小指を抑えながら僕はそう神様に誓った。 だけど次の日の昼、教室で兄から貰ったお弁当を食べようと鞄を探ると、あのノートがあった。 いつの間にいれたのやら…。 「奥村君、どうしたの?」 「…いえ、別に」 僕の周りにはなぜか女子がいる。 しかも黄色い声を上げながら。 ある意味では嬉しいのかもしれないし羨ましいのかもしれないが、毎日毎日お昼を食べる度にこんな感じじゃあある意味拷問でもある。 ノートなんか無視して、いつもみたいにすればいいのだろう。 だけど僕はそのノートが気になって仕方がなかった。 兄さんの背中が視界に入る。 こっちなんて気にしてませんというように語りかける背中。 「…あの、すいません。僕は今日別の場所で食べますので!」 それじゃあ!と大急ぎで教室から鞄を持って逃げ出した。 「あっ、奥村くーん!」 「私も行くー」 声を掛けてくる女子を無視して、大慌てでポケットから取り出した鍵を扉に差し込む。 そして追いかけてくる女子たちにさらに慌てて扉を閉めた。 「………っ、はぁー…」 一気に身体の力が抜ける。 なんだかどっと疲れた。 こういう時便利だ。 祓魔塾に通じる鍵。 それをポケットにしまい、誰もいない教室でお弁当を広げた。 ついでにノートも取り出す。 「…書いてる」 もしかしたらいらないノートを押し付けられたのかもしれないと思ったが、そうじゃないらしい。 「………」 僕はそのノートをゆっくりと開いた。 はいけい、ひねくれた弟さま 昨日、リクエスト聞いたけど、なんで肉でも魚でもなくカレーを選んだのか意味が分かりません。 あと足の指ふんでゴメン。 今日の夕飯はカレーうどんだから。 そんで、今日は放課後に任務あるって言ってたけど、スーパー寄れそうだったらおつかい頼む。 書いてる文章の下に貼られた紙。 それは買ってきて欲しいものが書いてある小さなメモ用紙だった。 「おつかいかよ…」 おつかいなんてわざわざ言えば済むものを、気が付かなかったらどうする気だったのだろう。 兄の行動はまったくもって不可解だった。 しかもなんだ、捻くれた弟って。 「…このことは謝るんだ」 『足の指ふんでゴメン』 そう書かれた文字を指先でなぞる。 だったら、あの日の喧嘩のことも謝れよと心の中で呟いた。 原因も分からないあのケンカの仲直りの仕方など、僕にはわからないのだ。 2011/05/04 top |