青の祓魔師


弟と、ケンカをしてしまった。
内容は当たり前のみたいに覚えてねえけど。

俺たちにしては珍しく手やら足やらが出るケンカだったのはハッキリと覚えてる。
そして見事に俺の拳が雪男の頬に決まってしまったことも。

それからというもの、俺と雪男は会話らしい会話なんてしていない。
塾とか、学校での必要最低限の会話はするけど、その他の日常でするような他愛無い話とかはまったくと言ってもいいほど無い。
部屋で二人きりになると無言になるからなんだか辛い。
しかもあいつはシレッとしてて、謝る気配すらない。
いや、俺も無いんだけど。

けど、俺が殴ったあの日から、あいつの怪我が気になるのだ。
ほっぺのシップとか、食い物を食う度に痛そうにしてるだとか。気になって仕方がない。

俺の怪我は、たったの数分で治ったっていうのに。

あまりにも悩みに悩んでいると、塾でしえみが声を掛けてくれた。
心配してくれるしえみに感動して、俺は思わず悩んでいる理由を言ってしまった。

だが理由を聞くと、微笑ましそうにして笑うのだ。
なんでそんなふうに笑うのかと怒ったが、同時にアドバイスも貰えた。

「口で謝れないなら、もっと別の方法で謝ればいいんだよ」

別の方法、と言われて首を傾げる。
なんだ、別の方法って。

「例えば、これとか」

そう言って差し出されたノート。
表紙が青い感じの、どこにでもあるノートだ。

「これならいいんじゃないかな?」

「…って、俺が謝んのかよ!?」

俺は謝る気なんて一ミリもねーって言うのに!?

だけどしえみの思いやりというかなんというか、そういうものを無下にするのもあれだから、ノートは受け取っておいた。

そして実行したそのあと。
俺は早くも落ち着かない。
雪男の机の上に置いておいたあのノート。
雪男はそれを不思議そうにして開きだした。やべえ、緊張する。

「…ククッ…」

しばらくして聞こえてきたのは雪男の噛み殺すような笑い声だった。

「…何笑ってんだよ」

なんだか恥ずかしくて悔しい。
だがその言葉も無視して雪男はサラサラとノートに何かを書くと、財布からお金を抜き出しそれを封筒にいれた。

「はい、どうぞ」

「うわっ、テメッ!」

軽く頭を叩くみたいにしてノートを渡される。
あいつはさっさと部屋を出て行ってしまった。

「…アイツめ」

出て行ったアイツはなんだか楽しそうに笑っていたから、とりあえず俺はちょっとだけほっとした。
くだらないとか言われて、馬鹿にされたらどうしようかと思ってたから。

「………」

何か書いてたよな。
俺はノートの中身が気になって、受け取ったそれを見た。






拝啓、隣に座るお兄様

何がどうなってこういう事になったのかは分かりませんが、とりあえず返事は返します。

今日の夕飯はカレーがいいです。
資金援助の方はしておきますが、あまり使いすぎないようにお願いします。

湿布ありがとう。






まるで機械みたいに綺麗なカッチリとした字は、紛れもなく弟の字だ。

「…アイツ、肉でも魚でもなくカレーかよ!」

なんて捻くれた弟だと、ノートを閉じる。
いや、ある意味カレーは肉の部類に入るのか?それとも肉と魚の中間という意味でカレーなのか?

ノートの一番最後に挟まれていた封筒を取り出して開ける。
それは確かにお金が入っていた。

「あーあ…買い物にでも行くか」

リクエストを聞いて、さらには答えてもらったのだから、作らないわけにはいかない。
メンドクサイとか、仕方がねえな、とか思ってるのに、俺の顔はなぜかニヤける。

「あー…クソッ…」

このノートをどうしようかと考えた。
まだ真新しいそれは使えるページがたくさんある。

しえみに返す、というのを考えたが、こんな使いかけ誰がいるだろう。むしろ迷惑に違いない。
だったら、と考えた。

「ま、まだ使えるし…」

仕方がねえよなと呟く。
そういえばまだ謝ってもないし、謝られてもない。
だったらまだ目的は達成出来てないのだ。

「高校生になって、交換ノートとか…ちょっとはずかしーけど」

別にいいよな。
もしかしたら、これから弟との交換ノートが始まるかもしれないのだ。




2011/05/01
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