青の祓魔師兄と喧嘩した。 どういった内容の喧嘩だったかは、実を言うと覚えていないんだけど。 僕らにしては珍しく派手な喧嘩だったと思う。 それはもうお互い手が出るほどの、激しい喧嘩だ。 そのおかげで今僕の頬はヒリヒリと熱く、その皮膚の上にも湿布が張られている。 口の中も切ったせいか、何かを飲み食いする度に痛みが走る。 本当だったら、兄さんにもその痛みが在る筈なんだけど、生憎そんな怪我は簡単に治ってしまうようでケロリとしている。 無償に腹が立つ。 次の日になっても、そのまた次の人になっても、僕らは仲直りらしい仲直りなんて事はしなかった。 だってこっちから謝るなんて癪だ。 兄さんもそうなのだろう、何も言ってこない。 お互い、必要最低限口も利かない。 お互い、必要最低限何も言わない。 そんな状態が続いていたある日、僕の机のど真ん中に一冊のノートが置かれていた。 青い表紙の、コンビニでも売ってそうな、どこにでもあるA4サイズのノート。見覚えのないそれ。 僕は疑問に思いながらも、そのノートを開いた。 はいけい、雪男 しえみからノートをもらったから、と りあえず書いた。 今日の夕飯、何が食いたい? ちなみに俺は肉が食いたい。 けどサシミとかもいいと思う。 とりあえずしきんえんじょとかをしてくれるとスッゲーうれしい。 シップやる。 少し読み辛くて、不器用に書かれた文字の羅列。 それは、紛れもなく兄の字だった。 隣に座る兄さんに気づかれないよう、チラリと兄さんを見た。 なるべくこちらを見ないよう、若干ソワソワしつつ僕の気配を伺っている。 尻尾なんてもう落ち着きがゼロだ。 僕はそれがなんだか面白くて、ニヤけないようにするので大変だった。 そして最後の文章。 『シップやる』 普通のノートだったら絶対にないだろう膨らみ。 それはノートの最後に挟まれていた。 湿布だ。 「…ククッ…」 思わず漏れ出た笑い声に、兄さんも反応を示す。 「…何笑ってんだよ」 クソッ、なんて言う恥ずかしそうな、悔しそうな声が隣から上がった。 とりあえず、僕のすることはたったひとつだ。 サラサラとそのノートに文章を書く。 そして財布からお金を抜いて、封筒に移してノートの一番最後に挟むのだ。 「はい、どうぞ」 「うわっ、テメッ!」 兄さんの文句も聞かずに僕は部屋を出て行った。 そのまま湿布を張るために鏡のある洗面台まで歩いていく。 鏡なんて部屋にもある。 けど本当は目の前であのノートを読まれるのが気恥ずかしいから出て行ったのだ。 「本っ当、可愛いことするなぁ…」 廊下でポツリと独り言。 今思い出してもニヤけてしまう。思わず顔を両手で覆った。 「交換ノートとか、小学生かよ…」 そう言って、僕は笑うのだ。 2011/05/01 top |