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雪男は弟、そして俺は雪男の兄貴。
血の繋がりは絶対で、しかも双子で男同士。
なんだ、コレ。








最近気がついたことがある。
それは他人からしたらどうでもいい事みたいに思えるかもしれないしそうでもないかもしれない、だけど本人にとってはかなり異常で大変な事だった。

俺は雪男が好きなんだ。

朝起きて歯を磨いて朝飯を食うぐらい当たり前に気がついたんだ。

(あっ、俺、雪男の事が好きなんだ)

こんな感じに。
なんでいきなりこんなふうに思ったのか、切っ掛けも思い出せない。
そもそも俺はあんまり頭が良くないから、思い出そうとしても思い出せない。
っていうか、雪男に惚れてるって事が衝撃的すぎて思い出せない。

コレを雪男が知ったらどう思う?
コレを皆が知ったらどう思う?

テキストを読み上げてから黒板に文字を書く雪男の後姿をジッと見て考えてみた。
とりあえずテキストが次のページに進んだからページを捲る。

ペラリ

まず手始めにしえみが知ったら?
しえみは優しいし、スッゲー努力家だと思う。
きっと知ってもキモイとか言わないだろう。
けどそれ以上に困惑する。

“燐、雪ちゃんが好きなの…?”

その困惑した顔がリアルに浮かんだ。
しかも若干引いてる顔をしていたから想像でうっかり傷ついてしまう。
こんな時だけ想像力がスゲー事になるから嫌だな。

前のページを参考にして考えてください、なんて言われたからページを前に戻した。
全然分かんねえ。参考ってどこで何を参考にしたらいいんだよ。

ペラリ

んじゃあ、次は勝呂が知ったら?
勝呂は見た目があんなだけど正義感が強くて真面目だ。
知ったらマジでドン引きだろう。あいつ頭固そうだから、受け入れにくいだろうなぁ。

“お前、それ、ホンマなんか…?”

うわぁ、コレもハッキリと嫌そうな顔で言うのを想像してしまった。
どうすんだよ、また心臓が痛いじゃねえか。

隣に座っているしえみが一生懸命ノートに文字を埋めていく。
俺も同じようにノートを取ろうと新しいページを開いた。

ペラリ

それじゃあ、志摩が知ったら?
志摩は飄々としているけど、結構勇気がある奴だ。
コイツの場合、冗談と思われそうだな。

“嫌やわー、今時そんな冗談ないで”

また想像。俺はどんだけ自分傷つけたいんだよ。
やっぱり志摩は軽い口調だったけど、顔は引きつっていた。
止めろよ、そんな顔すんな。

勝呂が雪男に当てられて悪魔薬学の小難しい問題を答える。
なんだそれ、そんな言葉聞いたことねえぞ。どこに載ってんだ?
とりあえず勝呂が答えた言葉を捜そうとページを捲った。

ペラリ

んじゃ、次は子猫丸が知ったら?
子猫丸はおっとりしてるけど、いざという時は頼りになる。
子猫丸の場合もしえみと同じで困惑してるけど、俺を傷つけるような言葉は言わないだろう。

“………”

きっと青ざめた顔をするだろう。
別の生き物を見るみたいにして黙って俺を見ているかもしれない。
うわー、言われるのもキツイけど結構こういうのもキツイな。
俺の想像力の豊かさを呪ってしまう。

志摩が手を上げて「しつもーん」と声をあげる。
俺も同じ所が分かんなかったから、話を聞いて解くための要素が載っていると言われたページまで捲った。

ペラリ

そんじゃあ、次に神木が知ったら?
神木は心開いた奴には優しいよな、必死に守ろうとするし。
けど神木の場合、露骨に顔に出しそうだな。

“そんなふうに思ってたなんて、キモイ”

うわー、キツイ。無言もキツイけどやっぱ言葉も辛い。
きっと眉間のシワをさらに寄せて、嫌悪感?って奴の塊で俺を見るんだろうな。
コイツの場合遠慮なさそうだからな。
こうやって幾らでも嫌なモノ想像できる俺ってある意味スゴクねえ?

子猫丸のシャーペンが俺の所にまで転がってきたからそれを拾ってやったら、膝を机の角にぶつけてテキストが落ちてしまった。
膝が痛てえ。とりあえずお礼を言う子猫丸にシャーペンを渡すと、自分のテキストを拾って元の場所までページを捲った。

ペラリ

最後、最後に雪男が知ったら?
雪男は頭も良いし、顔も悪くねえし、完璧っていう奴みたいだ。
雪男、他人には優しいけど、俺には遠慮がねえからな。

“     ”

言葉は浮かばなかった。
だけど、それ以上に今までで一番鮮明に想像できた。

アイツは目で語る、口で語る、肌で語る、全身で語る。
俺を汚いモノみたいにして、全部で語るんだ。

「キッツ…」

思わず出た言葉に慌てて口を塞ぐ。
隣にいたしえみはその行動に首を傾げていたけど、どうやらめちゃくちゃ小さい声だったらしい。
誰も俺を見ていないし、気がついてもいない。

よかった、とほっとしつつまた考え出した。
どうせ傷つくのに、こうやって考えてしてしまうのはナゼだろう?

神木がテキストを読み上げていた。
俺とは違って綺麗なハッキリとした声で読み上げるからうっかり聞き惚れそうになる。
なので必死に食らい付こうとテキストを握って次のページを捲った。

ペラリ

親父がコレを知ったらどう思うかな?
それを考えるとマジで怖かった。
雪男のも怖かったけど、親父のも同じくらい怖い。
っていうか想像さえもできなかった。

もう俺ダメだな、重症だ。
こうやって一人一人想像していくことからしてもうダメだろ。
なんでこんなふうになったんだろ?

雪男は双子の弟で男で俺の唯一の家族で。
たくさん考えた。ない頭振り絞ってたくさん考えた。
そしたら悲しくなった。ビックリするほど悲しくなった。

想像なんだからもうちょい明るく考えてみねえ?
マンガとかでよくある、実は雪男も俺の事が好きとか!!
ダメだ、自分で言っといてスゲー虚しい。

たくさん考えた。ない頭振り絞って必死に、たくさん考えた。
そしたら悲しみしか残らなかった。

「奥村君、次の所読んでください」

雪男の声。雪男の声は好きだ。
スッキリしてて聞き取りやすいし、何よりも俺の耳に馴染みやすい。

好きだ、雪男。

心の中で一度だけ告白をした。
けど雪男は俺が読み上げるのを待つだけで返事は返ってこなかった。
当たり前だ、心の中でなんだから。

「奥村君?」

「ワリィ…どこから…?」

聞いてませんでした。本当だから正直に答えると呆れたふうにため息をつく。
ううっ、そのため息止めろ。マジで傷つくから。

「123ページの二行目からですよ」

「ヘーイ」

俺は文章を読み上げた。
たまに突っかかったり、読めなかったりするけど、それでも最後まで読んだ。


コレは蓋をしておこう。
何があっても開かないように、何があっても溢れないように。
きつく閉めて、心の片隅にでも、物置みたいにして置いておこう。

だってコレは悲しみしか生まない。
それ以外何も生んでくれない。

だったら誰にも開けれないぐらい、自分でも開けれないぐらいきつく閉めて、そして隅っこに置いておこう。
そしたらきっと他のモノに埋もれて忘れるだろう。

俺は閉めた、文章をひとつひとつ読むたびに何度もきつく蓋を閉めた。
これでいいか、これでいいか、何度も確かめて蓋を回す。

蓋を閉めたソレは、底の隅っこに放っておいた。
そしたら目が熱くなった。目頭が熱いってこういう事を言うのかって身をもって味わった。
熱い、熱い、泣きそうだ。じんわりとテキストの文字が滲んできている。


蓋を閉めたソレは心の奥底の、さらに隅っこに転がしておいた。
もう二度と開かないように。
もう二度と見つけないように。




























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