青の祓魔師



優しい世界が欲しいと彼は言った。

それは誰もが望むものだった。優しい世界が欲しいという願望は、少なからず雪男の中にだってある。
まるでむせ返る様な甘さと、両手に有り余るほどの温かさ。人はそれを優しい世界と呼ぶのかもしれない。彼もそんな贅沢すぎるほどの世界が欲しいと言った。それはもう喉から手が出る程と。

「だから俺は、作りに行くよ」

迷いもなく言い切った言葉に、雪男は返事をすることが出来なかった。今ここでどう雪男が返事をしても彼は行ってしまうからだ。

なんの言葉もかけない雪男に燐はただ苦笑いをして頭をボリボリと掻いた。だがそのあとにとても穏やかに笑うものだから、雪男は力の限り殴ってやりたくなる。

「たった俺ひとりでどこまで出来るかわかんねえけどさ、やってみたいんだよ」

だから分かってくれよと彼は笑う。雪男は思わず歯を食いしばった。
空を見上げれば雪が降り、前を向いたら桜が咲き誇る中で燐が笑っている。この幻想的すぎる光景は一体何なんだろうとすら思う。

ちなみに今の季節は夏だった。
夏なのに雪が降り、桜が咲き誇る。まさに異常気象だ。
本来なら夏真っ盛り、気怠い暑さを感じる筈だったのに、肌寒い思いをしながら燐と雪男は二人きりで外に出ている。二人以外誰もいない。そうするように頼み込んだからだ。

歯を食いしばり、いまだ納得がいかないという視線を向ける雪男に燐はどう言おうかと少し眉間にシワを寄せて目を閉じる。
だが彼の寝癖に近い髪に一枚桜の花びらが落ちるとすぐに瞼が開けられた。

「俺さ、いつもどうやって返せばいいか、考えてたんだ」

風がふわりと頬を撫でる。本当だったら熱いはずの風が、鳥肌をたたせるものだから気持ちが悪くて仕方がない。

「お前が俺を守るために使った年月」

そんな無駄なものに頭を使っていたのか。だったら公式のひとつや詠唱の一文ぐらい暗記してほしかった。
雪男は視線だけでそう訴えると燐はそんな怒るなよとばつが悪そうにする。

「だからきっと、次は俺が返す番なんだ」

馬鹿野郎と言ってやりたい。
誰がそんなものを返してほしいと言った。
誰がそんなとうに捨てたものを返してほしいと言った。
いつ、だれが、実の兄を犠牲にしてまで返してほしいと言った。

自然と震える拳は予想以上に力が籠って、爪が食い込んで血が滲んでいるのが分かった。燐はその拳に視線を向けて優しく上から握る。

「俺は世界一幸せだよ」

嘘だ。絶対に嘘だ。
世界一幸せなら、どうしてこんなにも底から次々と湧き上がる様な感情で支配されそうなのだ。
兄が世界一幸せだというなら、弟は世界一不幸せではないか。

雪男は握られた拳の力を抜き、上から握られていた燐の手を握った。それはすぐに握り返され、温かい体温に泣きそうになる。

「だから俺は行くよ」

もう決めたからと彼は言う。
その声の強さに、泣いている友人たちや弟という立場を使って引き留めることも、プライドをかなぐり捨てて愛や絆で泣き縋る事も出来ない。

「優しい世界を、お前と、俺のために作ってくるから」

押し付けがましい。そのくせ拒絶もさせない。なんて傲慢で自分勝手で酷い人だと罵りたい。

雪が瞼の上に落ちて、じんわりとした冷たさが一瞬だけ感じる。体温ですぐに溶けたその場所に燐が軽くキスをした。

「兄さんの馬鹿」

ようやく出た言葉はそれだけだった。泣くかもしれないと思って吐き出せなかった声は意外なことに震えてもいないし、泣いてもいない。
いつも通りの、兄を軽く叱咤するときと同じ声色だった。

「愛してるよ雪男」

そう言ってまたもう片方の瞼にキスをする。反射的に閉じた瞼がなんて恨めしい。
この瞼を開けた時、あの何よりも大切な兄は姿を消しているのだから。

異常すぎる異常気象。
植物が狂ったように咲いては枯れ、瘴気が広がり空気が濁る。

片方の世界の神がいなくなった日、燐は虚無界へと行った。

魔神になるため。

瞼を開けるほんの一瞬、燐が何かを言った気がした。その言葉を聞いて、雪男はならば我慢してやろうと思ったのだ。

完全に瞼を開いたとき、燐は物質界から消えたのだ。














「雪ちゃん!!」

跳ねかえるような可愛らしい声に、たった一人しか呼ばない愛称。雪男は閉じていた瞼をゆっくりと重そうに開き、数年経ちさらに可憐に成長した女性が視界に入ると眩しそうに目を細めた。どうやらリビングのソファーで眠っていたようで、瞼と同様重い上半身を無理やり起こす。

「しえみさん…どうしてここに…?」

雪男の記憶が正しければここは雪男の家だった。雪男自身が購入した小さな家。日当たりも広さも充分なのに、幽霊が出ると言われるいわくつきの物件だ。
この土地の所有者も幽霊という存在に気味悪がり、早く売りたがっていたため雪男たちが購入するときはかなりの破格な値段になっていた。
幽霊や悪魔など慣れたもので、雪男と燐はその噂の幽霊に成仏してもらい、二人でここに暮らすことになった。
あの幽霊を成仏させたのはどちらだったかと、寝ぼけた頭で思い出そうとするが思い出せない。

「どうしてって…今日は皆で鍋パーティーするって約束したじゃない!約束の時間になってもスーパーに来ないし、お家に来たら鍵も開けっ放しで冬だっていうのに暖房も毛布も掛けずにソファーで寝てるし!」

怒るしえみを見ながら、まだ回りきらない頭でぼんやりと思い出す。
一か月ほど前にそういう約束をしたとハッキリと思い出すと、時計を見てもう約束の時間になっていることに驚愕する。
雪男もさすがに慌てて立ち上がろうとしたらバランスを崩してソファーから落ちてしまった。その様を一部始終見ていたであろうしえみは酷く驚き、目を数回瞬きさせてから「大丈夫?」と声を掛けてきた。

「…大丈夫です」

恥ずかしいところを見せてしまったと羞恥に囚われていると別の方向から堪えるような笑い声が聞こえた。

「…そこ、何笑ってるんですか?」

「い、いやぁ…すんません。けど、ククッ…そないな姿見たら笑うしか…プッ」

扉の前で両手にスーパーの袋を持った志摩がそれはもう楽しいものを見たというように笑いを堪える。傍にいた子猫丸が「志摩さん!」と叱咤するがもう遅い。
マヌケな姿を完璧に見られていたことに、またさらに恥ずかしくなる。

「オラ、扉の前で止まンな。チャッチャッと動け」

「寒いんだから早くしてよ」

恥ずかしくて堪らない空気の中、塾生時代から優秀だった二人がリビングへと入ってくる。
志摩同様、両手にスーパーの袋を持った勝呂が志摩の尻を蹴り、前に進むよう促すと雪男も動き出す。

「ごめん、寝てたみたいで」

「疲れてんねんやろ。しゃーない」

慌てて部屋の暖房をつけ、勝呂に近寄り片方の荷物を受け取る。勝呂たちは塾を卒業し、ある程度の資格を取ると敬語を止めた。雪男も生徒だった勝呂たちに対し、敬語を止めた。
とある日、燐が同じ年なのになぜ敬語なのかと言う疑問を投げつけたのだ。それはいくら同じ年齢でも、祓魔師での元教師とその生徒、先輩と後輩、という肩書は消えない。
敬語じゃないほうがおかしいのではという意見に、同じ学校で、同じ学年で、同じ友達なのにおかしいと口を尖らせたのだ。
それ以来全員敬語を止めた。けれどそれはあくまでプライベートの時だけであり、仕事や任務になると口調は早急に変わる。

始めは敬語を止めるということにかなり苦戦したが、今ではサラサラと言えてしまう。
思えば雪男は誰に対してでも丁寧な口調だった。中学時代の友人にも、同じ学年の人たちにもそれは崩さない。
くだけた言葉を使うのは兄と獅郎にだけで、それ以外はまるで壁を作っているかのようにも思えた。
それを思うとまるで本当にただの友人のようだとむず痒さを覚える。

「雪男」

ちなみにこの呼び方もそうだ。
敬語を止めると同時に名前を呼ぶようになった。

「涎でてんで」

「…ありがとう」

何がありがとうなのか、雪男はまた恥ずかしくなって口元を服の袖で乱暴に拭った。それを志摩が後ろでまた笑いを堪えているのも勿論知っている。

「そういえば、噂の秘伝のレシピ言うんは?」

子猫丸が雪男に問うと、雪男は台所の脇の本棚に置かれている大量のノートの中から目当ての物を探し出す。
それは燐が書いたもので、全て“俺的○○料理レシピ集”と一冊一冊丁寧に書かれている。中は全て、燐が今まで料理してきたもののレシピだった。燐が消える前に、料理のできない雪男のためにと残したものだ。

「これだね。“俺的鍋料理レシピ集”。字が汚くてかなり読みにくいけど」

あとたまに字も間違えている。ノートの中身を見ると雪男が修正した文字でビッシリだ。
中を覗いた三人組はそれぞれ苦笑いを浮かべたり、顔をしかめたりしている。

「まあ、とりあえずこれがあれば味は大丈夫…だと思う」

若干不安になりつつも雪男は気合を入れた。

「おっしゃあ!出雲ちゃん、杜山さん!待っててな、今俺らがめちゃ旨な男の手料理作るさかい!」

「お料理楽しみだね」

「切って煮るだけじゃない」

女子たちは木製のリビングテーブルとセットとなっている椅子に腰かける。
あまり料理上手とは言えない二人に変わって、今回は男だけの料理となっていた。とはいっても、男のほうも料理はあまり得意ではない。だからまだ簡単そうな鍋なのだ。
こんなときに燐がいればと雪男はこれでもかと悔やんだ。

手を洗い、いざ準備をしようとノートを開く。
やはり字は汚く読みにくいが、もうとうに慣れてしまった雪男には充分に読める字だ。

「とりあえず、野菜を切るって書いてる」

「まあ、そりゃあそうやろうな」

勝呂が当たり前すぎることに頷くと、雪男と勝呂が切る係に任命された。

「坊、雪男君、アレや。にゃんこの手やで」

「触んな」

「話しかけるな」

「えっ、せっかく親切にアドバイスしとんのに二人ともなんでこない冷たいん!?」

「集中してるから、手元が狂う」

二人が持っていた包丁は不慣れな物で、自然と手が震える。その緊張感が志摩や子猫丸にも伝わったのか、二人の手つきに息を飲む音が聞こえた。
だが勝呂は野菜を切っていく毎に包丁の扱いに慣れて上手くなっていく。雪男は相変わらずの不器用さだった。
これでも暇を見ては兄から貰った秘伝のレシピで料理しているというのに。

「まだ残っとんのかいな。手伝うから半分よこしい」

もう勝呂の分は終わったのだろう、雪男の分を切ろうとすると、雪男がその手を止めた。

「いや、これは僕の仕事だから…!」

その目は妙にやる気で満ちていた。これでも祓魔師の元教師であり、先輩だ。
負けてたまるかと妙な対抗心が雪男の中に湧き上がっていたのだ。
勝呂もそのやる気に水を差すのが悪いと思ったのか、それとも邪魔したら刺しそうだという雪男の視線に負けたのかそれ以上何も手出しをしなかった。

スピードも遅いが、ゆっくりだったらいけると雪男は力に手を込める。だがその瞬間、「嘘やろ!」という大声に身体が跳ね、強く握りしめていた筈の包丁がつるりと滑った。

驚愕。
包丁は運がいいのか悪いのか、雪男の足の指のすぐ横に転がっていた。
青褪める二人。志摩と子猫丸も気が付いたのか、雪男の足元を見て枯れた笑い声をあげた。

「えっとですね…この秘伝レシピ見てたら…なんや鍋って出汁とるらしくて…その材料がないんで思わず“嘘やろ!”って叫んでもうて…」

しどろもどろと言葉を綴る志摩。勝呂は雪男の肩に手を置いた。

「俺が代わるから…足りん材料、買ってきてくれ…」

「…お願いします」

雪男は床に転がる包丁を勝呂に手渡し、深々と頭を下げた。

「わ、私もついていくよ」

コートに手を掛け、重いため息をつく雪男のあとをしえみが追った。ついでにお酒も追加でという言葉も聞く。

お酒も飲めるし、落としてしまったが包丁だって握れる。
そうか、自分たちはもう大人になっていたのかと今更ながら自覚した。





空も暗く、歩いているだけで空気が突き刺さる。自然と息も白くなっていた。
二人並んで歩く最中、しえみが雪男にチラリと視線をあげた。

「ねえ、雪ちゃん」

「なんですか…?」

まだ若干落ち込んでいる雪男にしえみは思わず笑ってしまいそうになる。彼女の中の雪男はいつだって大人でかっこいい人だったのが、今では包丁ひとつまともに握れない人なのだ。

「寝てるとき、何かいい夢見てたの?」

「どうして?」

「とっても幸せそうだったから」

ふんわりと笑うしえみにつられるように雪男も穏やかに笑う。夢を見たかと言われ、眉間にシワを寄せて思案する。

「覚えてないや」

確かに何か夢を見ていた気がする。だが、どんな内容かが思い出せなかった。
夢の中で、何か約束のようなものをした気がする。

「きっといい夢だったんだね。起こすのが勿体ないぐらいだったもん」

それほど自分はにやけていたんだろうかと、雪男はなんだか恥ずかしくなってしまった。
最近よく眠ることが多くなった。高校時代は睡眠なんてほんの数時間で足りたというのに、今ではその倍は寝ないと身体が持たない。

まるで兄さんみたいだとぽそりと思う。
雪男が寝ない分、燐はよく眠る人だった。まるで雪男の分までというように睡眠を貪っていた。

雪男が懐かしい記憶にまで飛ぼうとしていたとき、視界の隅で何かが動いた。しえみも気が付いたのか、雪男の視線と同じ方向へ向く。

子供だった。ほんの少し離れた公園で、子供がろくに整備もされていない生い茂った草むらの中を必死に掻き分けていた。
今はもう夜で日はとっくに暮れている。寒いし、子供がいるには危険すぎる時間だ。

よくよく見ると子供は男の子で、しかも泣いているようだった。
公園の入り口で佇む二人は傍に寄って声を掛けようかと足を向ける。だがそれよりも早く少年の傍に誰かが寄った。

「…悪魔」

しえみが白い息を吐き出して、視界に捉えたものを呼んだ。
その悪魔はゴブリンで、なぜか酷く汚れていた。泣きながら草むらから出てきた少年の足元にゴブリンは何かを置いた。
涙を拭って顔を俯かせると、それが目に入ったのだろう。すぐに少年からはこれでもかと安堵と喜びの混ざった顔が浮かび上がった。
少年はすぐさま公園の入り口に向かって走り出し、雪男たちの脇を通り去って行った。

ゴブリンはそんな子供の姿を見えなくなるまで見つめていた。しえみが小さく手を振ると、ゴブリンもしえみに手を振り返し、そのまま少年とは逆方向に去って行った。

「探し物、見つけてあげたんだ」

穏やかに、優しい声でしえみは言う。雪男も小さな悪魔の姿を見つめながら頷いた。

「あの男の子が握ってたの、お守りだったね」

そうだ、あの少年が走り去る瞬間に見えた握られていたものはお守りだった。悪魔にとっては触りたくないだろうし、目にも入れたくないだろう。
なのにあの小さな悪魔はそれを見つけ、少年の元へと送ったのだ。
なんの見返りも求めず。

「男の子のほうは、きっと視えてないんだろうね」

「…そうだね」

白い息を吐き出し、とうとう姿の見えなくなった悪魔から視線を外した。なんだか先を越された気分だと笑うしえみに雪男もただ静かに笑った。

二人して再び歩き出す。
誰もいない、点々と灯る家の明かりだけが頼りの寒い夜道で女性と二人きり。そんなシュチュエーションだというのに、雪男の胸の中は苦しさと切なさでいっぱいだった。
だがそれはきっとしえみも同じだ。

「最近増えたよね。ああいうの」

「うん」

悪魔が人助けをする。そんな可笑しな事が増えてきていた。
悪魔退治をしていると、使い魔でもないのに他の悪魔が同じように悪魔を退治する。困っている人を見るとそっと優しく助けてくれる。
周囲はただ驚き、首を傾げる中、雪男はただその悪魔たちを見つめていた。

今までと同じ、人を闇に飲み込ませるような悪魔はたくさんいる。
だがそれとは別に人を困らせない、襲わない。そんな悪魔が出てきているのだ
人の闇に付けこむ筈の悪魔がこんなにも優しく人に接している。
雪男はその原因がなんとなく分かっていた。

旧魔神から産まれた悪魔と、現魔神から産まれた悪魔。

その二つの悪魔たちで別れているのだ。
人に害を成さない悪魔を、なんと呼べばいいのだろうと雪男は考えた。思い浮かんだ単語はまさに逆で、なんだか笑ってしまいそうになる。

「ねえ、雪ちゃん。何か、とても素敵な事が起こってるのかもしれないね」

「そうだね」

穏やかに笑うしえみと雪男。原因は二人とも分かっていた。きっと他の皆も分かっている。
彼が今、頑張っている。ただ一人で。
それが歯がゆいが、それでも待たなければいけないのだ。

雪男はようやく夢の内容を思い出した。
足を止めると、しえみが首を傾げる。雪男はそれにただ笑って答え、空を仰ぐと静かに瞼を閉じた。

「もういいかい?」

問いかけた言葉はちゃんと届くだろうかと不安だったが、瞼の裏に青い炎が映りだす。
そこはどこまでもどこまでも近くて遠い場所で、雪男には到底たどり着けない場所。美しい青い花が咲き誇る中、青い炎の源がこちらに背を向け佇んでいる。

「まだまだ。これからだからな」

だから迎えにくのはもうちょい先。
懐かしい声が耳に馴染み、雪男は思わずクスリと笑ってしまった。

「雪ちゃん?」

首を傾げていたしえみがより深く首を傾げると、雪男は「すいません」と謝り瞼を開けた。空を仰ぐのを止め、また歩みを止めていた足を動かす。

いつかの昔、燐は言った。

迎えに行くよ。
お前にいつか、俺の作った優しい世界を見せるから。

だから雪男はならば我慢してやろうと、涙を呑んで歯を食いしばったのだ。

雪男はしえみと並び、歩き出す。ゆったりとした歩調が酷く足の裏に馴染んで心地がいい。けれどやはり寒いからと二人とも急ぎ足になる。

材料を買い、家に帰って料理を再開させる。燐のレシピを見て作った鍋はとても美味しかった。
ここに燐もいればよかったのにと、少ししんみりとした空気も生まれたりしたが、それでも全員鍋に箸をつけることを止めなかった。

それがとても嬉しくて幸せで、それを伝えたくてまた瞼を閉じて天井を仰ぐが、次は青い炎は出て来やしなかった。
どうやら再開は当分先のようだと、心の中で舌打ちしながら雪男は再度鍋に箸を伸ばした。

































2011/10/21
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