青の祓魔師燐が虚無界でメフィストに育てられる話でパラレル? サタンの口調が意味不明ですが許せる。ちょいグロが入ってるけど許せる。 雪男ほぼ出てこない。双子じゃない。 メフィスト+燐。メフィ燐ぽいかもしれないけど気持ちはメフィ+燐!! とりあえずなんども許せる人だけどうぞ!! メフィストはある頼まれごとをされた。それは絶対に逆らえないだろう相手からであり、同時にそれは自分の父であり神でもある存在からだった。 しかもその頼まれごとというのが至極面倒。 「燐だ。育てろ」 ただその一言だけで済まされた短い会話。いや、これは会話とも言えない。 そして頼まれごとでもなかった。短く単純な命令である。 目の前にいるいつでも捻り殺せそうな、揺り籠の中で眠る小さな赤ん坊を見て直ぐに理解する。 ああ、なんという事だろうとメフィストは心の中でこれでもかというほど嘆いて見せた。 この我らが父はまだ二足歩行も出来ない、弱くてうるさい小さな赤ん坊を育てろと言うのだ。 しかも自分が。 そしてメフィストが嘆くのはもうひとつ理由がある。この赤ん坊はどう見てもただの悪魔ではない。 自分と同じ血が流れている。つまり魔神の落胤なのだ。 しかも魔神と同じ、青い炎を受け継いでいる。 これほど面倒な育児があるだろうかとメフィストは頭を抱えたくなる。 彼は楽しいことや面白いことが大好きだ。そのためならば多少の苦労も面倒も耐えられる。 だがこの目の前の赤ん坊はどう見てもメフィストにとっての利益になるものがないのだ。 あるのは面倒くさいことだけだ。 だがこの虚無界の神であり、全知全能である父にNOと言える筈がなかった。 それに言っても無理やりやらされるだけだ。なぜならこの全能なる父では子育てなんて絶っ対に出来ないからだ。 言うなれば性格のせいだ。飽きっぽく気まぐれ。これが原因である。 この父が飽きて気まぐれに虚無界にそのまま捨てておけば、この赤ん坊はそこら辺の悪魔の餌になるだろう。 ただ唯一青い炎を受け継ぐ魔神の落胤を。 だからメフィストはどちらにしてもこの答えしか出せないのだ。 「分かりました☆」 メフィストは自分がこんな目にあうなんて今まで想像も出来なかった。そして深いため息をつく。 目の前でピーピーと喚くこうるさい赤ん坊。 ああ、いっそ首を絞めて静かにさせてやろうかという思いさえ湧き上がったがそれをグッと堪えた。 なぜならこれは大いなる父からの預かり物だからだ。 メフィストは子供は嫌いじゃないが、うるさい赤ん坊は苦手だった。 こんなに小さな生き物の扱い方が分からないからだ。もう少し大きくなってもらわないと分からない。 もう一人の弟であるアマイモンと初めて会ったときは彼の見た目が五歳ぐらい。二足歩行と会話が出来る年頃だ。 ああ、そうだ。アマイモンに任せてみようかと考えた。だがそれも直ぐに脳内で却下される。 なぜなら彼はメフィストよりも遥かに年下で中身がまだ幼稚なお子様状態だからだ。それに力の扱い方がまだ上手くいっていない。 下手したらこの赤ん坊を殺してしまう可能性がある。 だから却下だ。 そして他の兄弟たちに頼もうかとも思ったが、彼らに借りを作るのも頼みごとをするのも癪だった。 ならばやはり自分がやるしかないのかと盛大なため息をつく。 息を吐くといつの間にか赤ん坊は泣き止んでいることに気が付き、揺り籠の中でメフィストを見つめている。青い目が、真っ直ぐとメフィストを見ていた。 メフィストはその真っ直ぐに見つめてくる澄んだ青い目が少し気に入った。 悪魔たちの瞳はいつも暗いくせに妙にギラギラしており、ドス暗い闇が蠢いている。なのにこの赤ん坊にはそれが一切無かった。 もしかしたらまだ赤ん坊だからかもしれない。だがそれでもメフィストはそれを一瞬で気に入ってしまった。 そうだ、泣かなければうるさくもないしまだ耐えられる。メフィストは試しに赤ん坊を抱き上げてみた。 キャッキャッと言葉にならない声で無邪気に喜んでいる。なんだ、意外と可愛いじゃないかと思わず頬が緩んだ。 悪魔なのにこんなふうに赤ん坊と接するなんて狂気の沙汰だ。だが一応この赤ん坊も悪魔なのだし、もしかしたら育てばそれなりに役に立つかもしれない。 そう思い、メフィストはなんだか面倒臭いことがどうでもよくなった。 この赤ん坊を自分の手で育てるのも、案外面白いかもしれない。 「うああああああ!」 だが赤ん坊の泣き声と鼻に纏わりつく異臭により、その想いは一掃された。 そこからメフィストの子育てが始まったのだ。 始めてみれば本当に面倒くさいこと以外の何物でもない。 何かあればすぐに泣くし喚く。力なんて上手く制御できるはずがなく、物を燃やされたことは一度や二度ではない。 だがそれでもメフィストのこの身だけは炎で焼かれたことは一度としてなかった。 そしてメフィストは最近気が付いたことがあった。 この小さな末の弟は虚無界よりも物質界のほうが好きだという事に。メフィストが気まぐれに物質界がどんなところかと覗かせてやったことがあった。 勿論除くだけだ。彼もやはり魔神の子、彼に合う強い肉体が物質界には存在しないのだ。 だがそれでも鏡で映しだし、覗かせるぐらいの力はメフィストにはあったので、ほんの少しだけ見せてやった。 だがそれ以来、燐は見たい見たいと喚いてうるさいことこの上ない。 そして子供にピーピー泣かれるのは嫌なのでメフィストは何度も見せてやった。ある程度の言語も理解出来るようになり、二足歩行も可能になってもそれは続いた。 どうせなら自分の好きな日本のわびさびである秋葉原やゲームなどの素晴らしい文化を理解させてやろうと思い、それらを中心に見せて教えてやったのだが、なぜか燐はそれらよりも料理などもっと別のものに興味を持った。 まさかそちらの方に行くとはと内心舌打ちをしたが、彼の料理が美味かったのでこれはこれでいいかと思った。 それからも彼は手足や背丈がグングン伸び、人間であれば思春期ぐらいだろうまで成長をした。無意味に泣くこともなくなったし、ある程度のことは自分でこなすようにもなった。 だがそれでも彼の物質界を覗き見する趣味はなくならなかったのだ。 「なあなあ、また見せてくれよ」 「…貴方、本当に好きですねぇ」 「いいだろ!減るもんじゃねえし。早くしろよ!」 いつからこんな偉そうな口が叩けるようになったのだろうかと頭が痛くなる。この自分が育てたのだからもっと紳士的な少年になる筈だったのだ。 なのにこんなにも無遠慮で育ててもらったという感謝の気持ちがまったく伝わらない、お馬鹿で単細胞な悪魔に育ってしまったのだろうかとメフシストは嘆いた。 だがそれでもやはり育ての親という性なのか、我が子にも等しい末の弟の願いは叶えてしまいたくなる。 「…アインス・ツヴァイ・ドライ☆」 そう言うと小さな手鏡を出し、燐にそれを放り投げるようにして渡してやった。燐も大慌てでそれを受け止めると鏡の中に映し出された映像に満足そうにする。 「サンキューな、メフィスト」 「本当、貴方の物質界好きには驚きますね。まあ、確かにあそこは豊かな玩具箱ではありますがね」 「ちげーよ」 「…はい?」 「俺は物質界じゃなくて、人間が好きなんだ」 メフィストは燐のその言葉に心底驚いた。なぜなら悪魔にとって人間はただの物質界に存在するための入れ物であり、自分の欲と闇を満たす餌でもあるからだ。 そう言う意味での好きならこの虚無界にはいくらでもいるだろう。 だが燐はそういう意味ではなく、言うなれば誰かを慈しむような、優しくするような、そういうもので好いていると言っているのだ。 「この前、ばあちゃんと一緒に花を植えて、その花が咲いて喜んでた女の子がいたんだ」 「三人ずっと一緒の奴がいて、すっげー仲がいいんだけど、この前おやつの取り合いでケンカしてた」 「悪魔が視えて仲間外れにされてる女の子がいたんだ。けど最近友達が出来てすげー嬉しそうにしてる」 燐は小さな手鏡の中でいくつもの世界を見ていた。それはどれも優しくて温かい、悪魔には到底似合わない代物だった。 「…燐、貴方は人間になりたいのですか?」 「そうじゃねえよ。けど…」 けど、と言葉が止まる。手鏡の中の世界を燐はじっと見ていた。 それは先程言っていたどの子供たちにも当てはまらない子供が映っていた。 身体が弱く、虐められてばかりいる泣き虫な少年。 燐はその子供をじっと青い瞳で真っ直ぐに見つめていた。 「ここに俺がいればいいのにって、思う時はある」 手鏡を通して、その涙する少年の頬に滴を拭うかのようにして触れた。その瞳は優しく温かい。 どうやらもう手遅れのようだとメフィストは落胆した。自分が育てた筈の悪魔がこうも変わり者になるだなんて。 父上になんと報告しようかと思ったが、この十数年間何も言ってこなかった父の事だから案外何も言わないかもしれない。 「その少年が好きなんですか?」 「な、ななななななんでっ!?」 分かりやすすぎるほどの動揺に笑うことさえ出来ない。メフィストは小さくため息をついた。 「こんないたいけな少年に心を奪われるなんて、貴方ショタコンですか?…麗しい女性にならばまだ分かりますが」 「お、俺の自由だろうがっ!!ほっとけよ!」 「いえいえ、ほっとけませんね。貴方をからかういい材料が手に入りましたから☆」 「うがあああ!!むかつく!!」 「悪魔なのに人間が好きで、少年に心を奪われる…貴方、とんだ変態になってしまいましたね」 そう言ってこれでもかというほど大げさに落胆してみせる。 「ほっとけ!それだったらお前も変態ってことだろうが!!」 「なぜ私も変態になるんですか?」 こんな完璧な紳士に向かってと大げさに両手を広げてみるが燐は地面に唾を吐くだけだった。なぜこうも躾が行き届いていないのかと自分の今までの教育を疑った。 「お前も人間が好きなくせに」 自分だけ常人ぶってんじゃねえぞと怒られる。メフィストはその言葉に目を丸くした。 自分が、人間を好き?どこか別の場所の言葉のようでまったく意味が理解できなかった。 だがそれでも燐の言葉は続く。 「いつも一緒に鏡覗いてるんだ。分かるっつうの」 「いえいえ、ありえません☆」 自分は精々あそこを楽しい遊園地程度にしか認識していない。それなのに人間が好き。 それはきっと他の悪魔たちと一緒の意味ではない、燐と同じ意味でなのだ。まるで慈しむかのように、優しく包むように愛していると。 まさか何か可笑しな思考を持って嘘をついているのではないのだろうかと疑ったが、燐の青い目は嘘を言っている目ではなかった。 そもそもこの弟に嘘などと言う高等な技術があるはずがない。どちらかというと嘘などはメフィストの専売特許だ。 「お前はやっぱり嘘つきだ」 燐がハッキリとそう言うので、メフィストは何も言えなくなった。本当はいつものように上手く誤魔化したりも出来る筈なのだが、それもなんだかする気分ではなかったのだ。 燐は再び手鏡の世界に意識を集中させる。メフィストはそれを後ろで眺めていた。 どうしてこんな悪魔になってしまったのか。 自分の教育は間違っていなかった筈だ。悪魔とは何か、人間とはどいれほど馬鹿な生き物か。 全て丁寧に、このツルツルの脳みそでも分かるよう刻み付けるようにして教えてやったと言うのに。 やはり他の世界など見せるものではなかったのだろうかとメフィストは過去を少し悔やんだ。自分と同じゲーマーにしてやろうというぐらいの軽い気持ちだったはずなのに、いつの間にか自分よりも大変な状態になっているのだから。 彼はまったく悪魔らしくない悪魔になってしまっていた。 それから数日していきなり父に呼び出された。燐も連れてとのことで言われた通り、連れて行く。 だがその間、メフィストは嫌な予感がしてしかたがなかった。 「よーう、息子たち!」 「お久しぶりです、父上」 「ひ、ひさしぶり…です」 優雅に挨拶をするメフィストとは違い、燐は若干ビクビクしながらこの世界の神に挨拶をした。 いつもどんな相手にも怯えなんて見せない彼が珍しいと思っていたが、目の前のこのサタンを見たらそうも言ってられないだろう。 彼は相手が一番恐怖する姿に形を変える。勿論それはメフィストにも当てはまっていた。 だがメフィストの目には彼がただの青い炎に見えた。 ユラユラ揺れる青い炎。それがこの世界の玉座に座っている。 どんな形にも姿を変えれる彼はまさにこの世界の神なのだろう。逆らえるものなど誰もいない。 サタンは青い炎をゆらりと揺らして燐を見つめた。それはまるで観察するかのような視線だ。 「…メフィスト」 「はい」 「ぜーんぜん、ダメだ!!」 「…と、言いますと?」 いきなりダメだと言われたが、一体何がダメなのださえメフィストには分からなかった。それもそうだ、突然呼び出され、突然ダメだと言われれば分かりもしない。 「オレサマが欲しいのは、こんな悪魔じゃねえんだよ!!」 そう言った瞬間、視界いっぱいに青い炎が広がる。 一瞬、自分がやられたのかと思ったが身体には熱さも痛みはなかった。そしてゴトリと隣で嫌な音が聞こえた。 首から上が無い死体。 それは紛れもなく、先程まで自分の隣に立っていた末の弟であった。首から上が無くなり、倒れた死体からは焦げ臭い匂いが漂っている。 「父上、突然何を?」 首を傾げて父を見上げるが、目の前の父は頭を抱えて違う違うと駄々を捏ねるばかりだ。 「俺様が欲しいのは、こんなよわっちい奴じゃねえんだよ!もっと残酷で、残忍で、誰もが恐怖し泣き叫ぶ、そんな誰もが思い描くような単純明快な最強の悪魔が欲しいんだよ!!」 それはまさに貴方ではないかと言いかけたが、メフィストはその口を閉じた。 どうやらこういうことだったらしい。いきなり育てろと言われたのは、この青い炎を受け継ぐ弟を言うなれば父のような完璧な悪魔に育てさせるためだ。 そういうことかとやっと理解する。 「それならば言ってくださればそう育てましたのに」 嘘だった。そんなふうに育てようとしたのに、メフィストは燐を悪魔のような悪魔に育てられなかった。 「それじゃあダメなんだよ。もっと自然に、ナチュラルに育てて欲しかったんだよなァ」 至極残念そうにサタンは炎で出来た頭を項垂れさせた。まるで子供のようだとメフィストは冷静に思う。 青い炎は首から上が存在しない燐の身体に近づき、その身体を仰向けにするよう蹴ってやった。 「ギャッハハハハァ、こいつはもうダメだな。脳みそすら存在しねえ!」 だがそう言った瞬間、首のない燐の死体が動き出した。起き上がりはしないものの、手足をバタつかせ、まるで打ち上げられた魚のように地面にもがく。 「ウゲッ、まだ生きてやがった」 心底嫌そうに言うサタンは床でのた打ち回る燐の身体を何度も乱暴に蹴った。 「オラッ、さっさと死ねよ!そうじゃねえと次が出来ねえだろうが!ギャハハハハ!!」 「次…?父上、次とは一体?」 「…あー、そうか。何も教えてなかったもんなァ」 メフィストは静かにただサタンの話を聞いた。 どうやら燐を育てたのはメフィストだけではないらしい。メフィストの兄や弟にも過去に育てさせていた。 だが気に入らなかったらこうやって処分する。 頭のみを。 悪魔の急所は尻尾だけではなく、勿論頭部も大事だった。 あらゆる記憶を司る脳が詰め込まれている。そしていくら再生が出来ると言っても本来なら頭部なんて再生できない。 本来なら。だがそこはさすがというか、魔神と魔神の落胤という力のおかげで燐の頭部は再生される。。 だがさすがに記憶までは再生できない。 だからこうやって頭を潰して空っぽにして、次の兄弟に育てさせるのだ。 魔神が気に入る作品が出来るまでずっと、ずっと繰り返す。 「まあ、お前の育て方も中々笑えたぜ。まるで人間みたいにして育てるんだからな」 ゲラゲラ笑うサタンにメフィストは何も答えなかった。 ただ転がる死体を見つめる。死体は何度か蹴られると、ようやく動きが止まり、もうピクリとも動かなくなっていた。 これでも苦労して育てたのだが、こうやっていとも簡単に壊されてしまうとはとメフィストは燐の死体を見下げる。 特に怒りも悲しみも湧かなかった。メフィストにとってはこういうことは当たり前だからだ。 気に入らなければ、思い通りにならなければ、殺して処分する。 ただそれがいつも通り実行されただけなのだ。 だがひとつだけ惜しいなと思う事はあった。 あの青い瞳。 あの真っ直ぐな瞳がもう二度と見れないのかと思うととても惜しい。 もう頭部が無くなった状態ではそれを焼き付けることさえできないのだ。メフィストは静かに、静かに怒りでも悲しみでもない、ただ胸の何かが無くなるのを感じ取った。 青い目の悪魔は死んでしまったのだ。 「兄上、新しい弟です」 アマイモンが突然連れてきたのは小さな弟だった。それは五歳ほどの小さな子供だった。 そしてその姿はとても見覚えのある姿だった。 「おれはりん!よろしくな!」 ニコリと花が咲いたような笑みも勿論覚えがあった。知りすぎるほどに知っている。 彼は間違いなくあの燐だった。 「…初めまして、私はメフィスト。貴方の兄です」 だがあえてメフィストは知らないふりをした。どうせ相手も覚えていないのだからこちらも知らない方が都合がいい。 「アマイモン、お前が育てるのか?」 「ハイ、父上に今日突然命じられました」 きっと自分のときと同じように「育てろ」とだけ言われたのだろう。このアマイモンが育てるとしたらどんな子供になるかと不安でいっぱいになる。 そして明らかな差別があった。 メフィストのときは赤ん坊だったのに、アマイモンのときでは五歳の少年なのだ。どうせやるなら自分の時もこれぐらいの年齢にしてほしかったと不満に思う。 「“次はお前の番だ”と」 「…そうか」 ただそう答えるしかなかった。燐はメフィストを見上げるとニコリと無邪気に笑顔を浮かべる。 それはあの頃の笑顔とそっくりだった。人物が同じだからそうなのだろうが、それでも燐には記憶がなく、あの頃の燐ではない。だが二度と見れないと思っていた笑顔が返ってきた気がした。 「…燐、貴方にプレゼントをあげましょう」 「なんかくれんのか?」 「ええ、とてもいい物です」 そう言うと燐は目をキラキラといっぱい輝かせた。期待に満ちた瞳は少し眩しく、メフィストはいつものように呪文を唱える。 「どうぞ」 「かがみ?」 それは手鏡だった。まだ五歳の彼には少し大きい手鏡。 燐はそれを両手で受け取るとこれのどこがいい物なのかという顔をしていた。だがメフィストの次の言葉でまた一気に目を輝かせる。 「ここではない、別の世界を映す鏡ですよ」 「すげー!ふしぎかがみだ!」 「兄上、どういうつもりなんですか?」 「別に、私はただ自分と同じゲーマーが偶然欲しくてな。これぐらいの頃から教えてやったらそれはもうさぞかし立派なオタクとやらになるだろうと思ってやっただけだ」 「…兄上がそうおっしゃるならそれでいいです」 興味がないのか、それとも諦めているのか、アマイモンはそれ以上何も言わなかった。 その間、燐はその鏡を見つめ続けていた。 「ほかの、せかい」 「物質界という世界が見れます。気に入っていただければ幸いです」 「おおー…!ありがとな、めふぃすと!」 気に入ってくれたのか、燐はにこにこと明るい笑みをメフィストに向ける。それに少しだけメフィストはほっとした。 「是非、感想をお聴かせください」 そう言って弟二人の元から去って行った。 メフィストは自覚していた。これが間違いだということに。 まるで親に反抗する子供のようだ。 あんなものを渡したら、燐はまた物質界に夢中になり、人間を好きになるかもしれない。そしたらまた悪魔らしくない悪魔になり、父に処分される。それに次は悪魔らしい悪魔を作ることに飽きてしまうかもしれない そしたらもう本当に二度と会えなくなるということをメフィストは分かっていた。 だがそれでもあの青い瞳にどす黒い闇など入れたくなかったのだ。 単細胞で、躾がなっていなくて、物質界が好きで、料理が得意で、人間が好きで、誰かを愛した、世界で一番馬鹿な、あの青い瞳の悪魔に。 ただ、それだけだったのだ。 青 い 瞳 の 悪 魔 2011/08/07 top |