小説 long | ナノ


02



「志ぃ萬ー!!」
「ん?」
「志萬!一緒に帰ろうぜ!」
「お、おぉ。別にかまわへんけ、ど…」




『(ほんとイケメンだな…、なんか沖野さんとの馴れ初め聞くの怖くなってきたわ…)』
「(後ろの高瀬とか言うやつ、えらい見てきとる…。俺さっきなんかしたか…?)」
「??志萬、なんか汗スゲーぞ?」



志萬、九浄、俺で三人並んで下駄箱まで歩いていく。九浄は志萬に質問しまくっていて、俺はそれに軽く答えている志萬を、じーっと見ながら、沖野さんとの馴れ初めを聞こうか聞くまいか悩んでいた。どうしよう…、沖野さんを落とす方法がイケメンだから許される行動だったらどうしよう…。俺絶対外人さん殴っちゃうよな…。
俺は見た目平凡だ。幼なじみのサブはイケメンの部類に入るだろうけど、俺は普通平凡部類になるだろう。よくサブに可愛いと言われるが、サブの目が霞んでる事は知っている。アイツの目は時々悪くなるんだ。とゆうか可愛いと言われて喜ぶ男がいるか、ぼけ。せめてそこは御世辞でもかっこいいだろ。イケメンって言われたいとは思っていないが、やっぱり日本男子たるものかっこいい位言われたいと思うわけですよ。なんでその小さな願望さえも叶えてくれないんだ、不平等すぎるだろ、大体、なんで外人さんは彼女の沖野さんと一緒じゃないんだよ。せっかく沖野さんに自己紹介くらい出来ると思ったのに。近くで話せると思ったのにっ、


『いったいどうなってんのやっ!?』
「(ビクッ!!)」
「幸汰?いきなり叫んでどうした?妄想?」
『ぇ…。あー、うん。ちょっと意識がフライアウェイしてただけ。』
「(ビビったっ…!急にあんな大声で叫ぶなや…!)」
「眉間にシワよってるし!その顔も可愛いとか神秘!」
『可愛い言うな。また目悪くなってるぞ。ゴラァ。』
「(な、なんや、高瀬の背後から鬼が出てきとる…!)」
「幸汰は可愛いってー!無自覚な所がまた神秘だよね!」
『…………ほぉ?』
「っ!く、九浄、高瀬、ほら、こないな所で止まってないで早よ帰ろう、なっ!(九浄にはあの鬼が見えてへんのかいな…!)」
「ん?あ、おーきのさーん!」
『へぅえ?沖野さん!?』
サブの可愛い発言に沸々と湧き上がった怒り。それに外人さんは気づいたのか、怒りが爆発する前になんだか上手く纏められた気がする。…まぁ、もう可愛い発言には呆れが出てくるな。慣れって恐ろしい…。
外人さんに背中を押されて歩き出すと、サブが下駄箱の所に居た沖野さんに気付いてかけていった。俺は一瞬で怒りが消え去って、サブに続くように下駄箱に駆け寄った。


******「……」
「……」
「あ!」
『…わー。ラブレターの雪崩やー。』


沖野さんと外人さんが下駄箱を開けると、すごい数のラブレターが流れ落ちた。いつもサブの下駄箱に入っている数と同じくらい落ちたな…。それを3つ同時に見れるとかラッキー…。でもラブレター早すぎだろ…皆二人のどこに惹かれたっていうんだ?…俺も沖野さんにラブレター書けば良かったなぁ。


「テンション高いな、このガッコ…」
『サブ限定で、だけどねー』
「チェラブザルだ!幸汰!今日も」
『下駄箱には靴だけ入ってれば良いんだよ。』
「うんうん!よしっ!」
『…モテるからってっ…!』


もちろん俺の下駄箱にラブレターが入っていたことは一度も無い。毎日サブに無いことを喜ばれるが、コレにももう慣れた。サブは俺がモテ無い方が良いらしい。人の不幸を喜んで、何が楽しいんだ…。
靴を持ってサブの横で履いている時に、外人さんに質問してないことに気付いた。でも沖野さんがいるから、なんか聞きづらいなー。


『…あの、』
「ねーねーっ志萬!」
『(!何で今タイミングかぶらせるんだよ!)』
「ん〜?」
『(はー。ま、後で聞けば良いかー)』
「二人っ、付き合ってるの?」

………。
『サブっ、お前やっぱり良いなっ…!俺も聞こうと思ってた!』
「まじっ?やっぱ気になるよな!タイミング神秘!」
『まじで神秘だよ!いやー、やっぱり京都で同中だったらしいし、美男美女だし、』
「もー、チュ〜とかしたの?」

サブが変わりに質問してくれたことに感動して、思わず立ち上がってサブの両手を握った。そのまま外人さんの方を見ると呆けた顔をしていた。あれ?照れたりしないのか?チューしてるか聞かれても平気とか、ま、


『まさかっ…!』
「エス・イー・エックスとかしたにょ」
『セッくにゃ』
「しとらんわ!教育実習生に興味津々の小4生かおんどれは!」
サブはわくわくしながら、俺は驚きながら聞くと両頬を片手で挟まれて、アヒル口にされた。なんだよなんだよ!もうそこまで終わらせたのかよ!
まだ馴れ初めも聞いてないし、手を離して欲しくて唸っていると今まで無言だった沖野さんが静かに立ち上がった。


「ああ…。たしかに安吾には何度か…ヤられかけた。」
「にゅっ?(ヤ?)」
『にゃっ、!(ヤっ…!?)』
「ま、そのたびにわらわの方が押し倒してやっておるがの。」

真っ黒の黒猫が鈴を鳴らしながら何処からかやってきて、沖野さんは猫を抱き上げた。その拍子にスカートが揺れてパンツが見えてしまっ、えっええ、沖野さん、声も、タイプだ…。呆けって見ていると流し目でこちらを見た沖野さんと目があった。


『(睫毛ながい…)』
「九条、…と、高瀬、じゃったか?」
『っ!ぷは、は、はい!』
「クス…。高瀬、そなたも気をつけられよな。」
『は…はい…。』


沖野さんが黒猫を抱いて去っていく。猫め、羨ましいな。
正直何に気をつければ良いのか分からんが、沖野さんに名前を呼ばれただけで顔が熱くなる。名前覚えててくれたのか、ぁぁ、でもちゃんと自己紹介したかったな。嬉しさがじわじわとこみあげてきた。


『っ、やったー!』
「ぅおっ、また叫んで…。」
「〜〜、神秘!!ガッツでガッツンガッツン!」
「っ、自分ら五月蝿いわ!」
『名前…。覚えててくれたんや〜。』
「自分、関西弁うつっとるで。(名前って…)」
「関西はやっぱススンでるぜ!スゲェよ志萬!!」


沖野さんが帰った少し後に、俺達は騒ぎながら帰り始めた。騒いでるのは俺とサブで、志萬は呆れながら横を歩いている。


「アカン、なんや誤解しとるわ…」
『っ外人さん!いや、志萬!』
「、何や?」
『志萬、…沖野さんと付き合ってないよな?』
「…はぁぁ。やっぱ誤解しとるわ…。付き合ってなんかないわ。」
『!ま、まじか!?俺がモテないし平凡だから可哀想だと思って同情心で嘘ついたとかじゃないよな!?』
「自分めっちゃネガティブやな…、そうやない。」
『お、押し倒してなんかないよな!?』
「ないわ!」


嬉しい気持ちでいっぱいだったが、結局付き合ってるのかあやふやだと気付いた。確認したらノーですよ!付き合ってなかったのか。驚きだが、沖野さん、どんな人がタイプなんだよ…。こんなイケメンな志萬でも興味無い感じだもんな。俺無理じゃないか。絶対タイプの範囲外だろ。


『…よしっ、俺違う彼女を探すよ!』
「いやいや、自分、全部話さんと意味分からん。」
『あ、ごめんごめん。よく主語話さないで話しちゃうんだよねー。』
「(主語以外無さすぎやろ…)…まーえーわ、なんや、自分らおもろいな。」
『(笑顔爽やかや…!)ええ?志萬の方がおもろいって!っおわ、』
「なーなー!志萬って今ヒマ?!この後『ゴビ』って服屋行くんだけど行く!?」
「は?」
『サブは相変わらず話が飛ぶなー』


サブが志萬になついた話をしてたから話すタイミング無かったんだが、また結論だけ言ってしまった。よく主語が無いって言われるけど、癖ってなかなか直らない。後ろからサブが乗ってきたがいつもの事なのでそこはスルーする。
サブは志萬になついたって言ってたけど、俺も多分志萬になついた!志萬面白いし、さっき自然に笑った笑顔も爽やかでかっこよかったし。お友達になってイケメンパワー少し貰おうかなー。


『うん、志萬も一緒に行こう!おもしろい店だから結構楽しいし。』
「そーそー!上が居酒屋になってて、白狐って店長がすげぇ神秘でー、」
『子供も居るんだけど、めちゃくちゃ可愛くて、』
「――そやな。…忘れかけとったわ。」
『え?』
「ん?」

『…あれれ?』
「あり?シマー?」
小さく声が聞こえた気がして志萬の方を見ると、そこに志萬は居なかった。
辺りを見回しても居ない、え?志萬急にどこ行ったんだ?


『志萬急に消えて…忍者みたいだな…』
「志萬って忍者?!神秘!急に居なくなるの上手すぎ!」
『ほんとに忍者だったら、かっこよすぎるなっ。』
「明日どうやって消えたのか聞こうぜ!」
『おー!んで、明日は三人でゴビ行くか。』
「そうだな!」


志萬が居なくなった理由は分からないけど、明日聞けば良い気がする。志萬は不思議だなーほんとに忍者なのかなー。志萬とゴビに行けないのは残念だけど、まぁ、まだ転校初日だしね。ゆっくり仲良くなっていけば良いか!
サブと並んで歩き出す。夕日が出ていてもうすぐ日没になる。さっき冷たい風が吹いたからか、少し肌寒くて、身震いした。なんでか胸の辺りがざわざわするが、深く考えなかった。

もうすぐ、日が暮れる。





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『(今日なんか嫌な事あったっけ…)』
「あ、幸汰この袋とじ見たっけ?」
『!最新のじゃんか!見てない見てない!』




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