1 ワタシの昔話。

小さな頃からよく言われてきたことは、
「人生は一番でなければいけない。名誉も地位も得ることが出来ない人間はクズだ。」
ということ。

大手企業に勤める父はいつも仕事で家に帰ってくることがなかった。だから広い家に母と私、二人だけで住んでいた。父が家にいないことはあたりまえで、父は素晴らしい人なのだと教えられた。
物心つくまえから、母は私に沢山の事を教えた。
「勉強も運動も一番になりなさい。最優秀をとりなさい。父のように立派になりなさい。」
まだこの“母の世界”しか知らなかった私は、それに疑いを持つこともなく言われた通りにした。そうすることが私の人生だと、そうしなければお母様は私を愛してくれない、と思っていた。
幼稚園では将来有望な子とお友達になった。そして受験勉強に励み、お金持ちの子供が通う私立の小学校に合格。そこでも、一通り習った楽器のコンクールでは最優秀。運動も勉強も、周りの子に差をつけて一番になった。
私は母の望んだ通りの人生を歩んでいた。ただ母に愛されたくて、これがあたりまえなのだと頑張っていた。母の世界でのルール、一番以外はいけない。クズになってはいけない。このルールを破ってはいけないと教えられていたから。


でも、小学校高学年になったある日、母の世界は壊れた。
それはとてもとても呆気なく、壊れていったのだ。


学校が終わったいつも通りの時間に迎えの黒い車が来ない。少し待ってみたが塾の時間が迫っていて、仕方なく歩いて家に帰った。
大きな玄関を開けると鍵が開いていた。不思議に思いつつ中に入る。
静かだった。電気が一つもついていない。夕暮れの赤い光だけが家を照らしていて、不気味な雰囲気が漂っている。
家が静かなのはいつもの事なのだが、なんだか違和感を感じた。思わず、ランドセルの肩の部分を握る手に力が入る。
いつも通りにリビングから母の部屋の前まで行く。二回ノックをして、

『お母様、ただいま戻りました。』

教えられてきた言葉をきちんと言う。…しかし、いつもなら直ぐにする母の返事がしない。もう一度ノックをしてみたが、返事がない。
シンと、静けさが頭に響く。無意識のうちに唾を飲んで、静かにドアノブに手をかけて、扉を開けた。

『……え…。』

母は倒れていた。服を赤く染め、髪を床にばらまきながらうつ伏せに倒れていた。
その脇に、そんな母を見下すようにして人が立っていた。右手には赤く染まった果物ナイフを持って、肩で息をしていた。髪が長い、女性だった。
むせかえるような血の匂いが鼻につく。息が、止まる。体が震えて女性から目を離せない。逃げなくてはいけないと、頭は理解しているのに足が動かない。そんな時、いきなり玄関の方で大きく扉を開ける音がした。それに続いて何人もの足音と大きな声。女性が、はっとして後ろを振り向いた。私と目が合う。すると顔を強ばらせながら、母の血のついたナイフを震えている手で私に向けて、走ってきた。すると、右の開いている扉から黒い格好の人--背中に大きくpoliceと入っている、警察が何人も部屋に入ってきた。その人達が彼女を止める。
彼女が落としたナイフが私の足元に滑ってくる。血が鮮やかに、目に入ってきた。そして、喚く彼女の大きな声と肩を支えてきた警察の心配そうな声を聞きながら、私は力を抜いた。息を吸って、母の血の匂いを最後に、私は意識を失った。



これが、私の家族の思い出。
ドラマでありそうな、悲しいと同情されるようなお話。

この母の死をきっかけに“普通の世界”で生きる事になって5年。

私は、今日も、
リンチにあっています。

『(面倒だ…)』

私はお嬢様から、普通の女子高生になりました。


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