#6 モブ気質なので、手錠プレイはちょっと……
どうやら私はあのままサボに連れられていけば、サボの部屋に入ることになっていたようだった。
危ない、危ない。革命軍の中で変な噂が立つと私のこれからが!
それにサボの隠れファンでもいたら、私は殺される!
……実際、その心配は的中しているようで。
「サボさんってやっぱり素敵ですよね」
「過去の記憶がないってミステリアスなのもいいですけど、吹っ切れた顔をなさっているのがまた素敵です」
食堂で洗い物をしながら、食堂でお茶と共に花を咲かせている女性陣の会話を右から左に流していた。
「でも、サボさんが連れてきた客人?幼馴染?というのが得体がしれないわ」
「でも、サボさんの記憶を取り戻したのもその人なんでしょう?」
「どんな人なんですかね」
……こんな人でーす。とは言わずに、私は黙々と皿洗いをしている。
置いておいてもらう間何か雑用を、と申し出たが足に怪我をしている私は椅子に座って皿洗い程度し出来ない。
すると、真の悪いのか良いのか、女性陣の話の的であるサボが食堂に入ってきたようだった。
頼むから、私に話しかけないで、と心の中で祈ったが、その祈りは届かなかった。
「シャトラン」
「……何?」
「そんながっかりした顔するなよ。傷つくなあ」
傷つくといいながら、笑うサボ。私は、溜息を吐いた。
「どうしたの?」
「実はさ、昼飯食べ損なったんだ。何かないか?」
「……何かって、うーん。料理長ー。参謀総長が、お腹空いたそうです」
と、食堂の奥の休憩室に向かって、声をかけると、返事が返ってくる。
「一人分か?なら、冷蔵庫の中身適当に使っていいぞ」
「はぁーい。……んー、サンドイッチなら、直ぐに作れるよ?」
「じゃあ、それで頼むわ」
私は椅子から立ちあがると、そっと怪我をしている足を庇いながら少し先の大きな冷蔵庫を開けて、ハムとレタスと調味料を取り出して、調理台に出す。
「あ、サボ。そこのパン適当に取ってー」
「ああ」
籠に入っていたフランスパンを渡されて、私は適当に切って、適当に具材を挟んでいく。
「はい。……何、笑っているの?」
「いや、お前も大人になったなぁ」
「サボも大人になったよ。……いい大人になったんだから、腰に手を回さないで」
と、腰に回った手の甲を抓った。
「いてて。悪かったって、立つの大変そうだなと思ってさ」
「実際、立っている分にはあまり痛くない。はい、出来たよ」
「さんきゅ。じゃあ、俺、仕事残っているから」
まな板に乗せっぱなしのサンドイッチを差し出すと、サボがサンドイッチを手に取ると、出て行こうとする。
「忙しいの?」
「出ている間に書類が溜まっていてな。なーに、ちゃちゃっと片付けるさ」
「……後で部屋に珈琲持っていくね」
「おう、ありがとな」
にっと笑うと、サボは今度こそ、食堂から出て行った。
……さて、私も片付けて、珈琲淹れる準備をしようと動くと、5つ分の視線を感じた。
「参謀総長とどういうご関係で?」
と、にっこりと笑うナース姿にコートを着たお姉様。
私は用意していた答えをそのまま言った。
「昔の知り合いですよ」
「そうなの?昔のサボさんを知っているの?」
「子供の頃の、ですが。……昔から、笑顔だけは変わらないですよ」
「あらあら。サボさん、昔からあんな風に貴女に微笑むんですね」
とても、愛おしそうに微笑むのね。と言われて、私はフリーズした。
「貴女はサボさんの初恋なんでしょ?今も昔も変わらない恋があるから、サボさんの心誰も射止められてないのよ」
それを聞いた私は……
サボに珈琲を出した足でバルディゴから逃げ出した
「お前、その足の怪我で何で逃げるんだ、馬鹿」
バルディゴの入り口でサボに捕まりました。
「何でわかるのよ!?コインで道を決めてで出てきたのに」
サボは私のリュックサックを背負い、私を小脇に抱えて、バルディゴの何処かへ向かう。
確かに私はサボに珈琲を出した後、その足で荷物を取りに行き、タイミングと道順をコインで決めて出て行ったのだ。幸運に導かれるはずだ。
「そうだなぁ……シャトランにとっての幸運は俺に捕まることだったんじゃないのか?」
「……くうう、なんでよ」
私は握ったままだったコインを恨みがましげに見る。歩いているサボも私の手元のコインを見た。
サボは驚いたらしく、目を瞬かせる。
「そのコイン、持っていたのか?」
「え、うん。弾きごごちがいいの。……それに、サボがくれたコインだし」
子供の頃に貰った竜の絵柄が描いている金貨。
「そうか」
話しているうちにサボの目的地に着いた。サボは私を小脇に抱えたままドアを開けて、それから、私をソファに荷物と共に置いた。
彼はデスクの方へ行くと、大きな引き出しを開けて、がさごそと何かを探している。
「あった、あった」
サボはそれを後ろ手に隠しながら、私に再度近づいてくる。
「手、出せよ」
「あ、うん」
右手を出すと、その手首にがちゃんと……手錠をかけられた。
「え」
「で、反対側はこっち」
と、手錠のもう一つの輪はサボの左手に嵌められた。
「え、サボ!外してよ」
「やだね」
と、まるで少年のように笑った。
手錠を見れば、輪と輪を繋ぐ鎖は1メートル程あり、余裕がある手錠だった。……だからと言って嬉しいことないけど。
「俺から逃げようとしたお仕置き」
「別に逃げようとした訳……ですね」
「ほら見ろ!……たくっ」
どさり、とサボは私の隣に座った。
「シャトラン、別に逃げなくてもいいだぞ」
何から、とはサボは言わなかった。
私はただ、この世界のモブとして、ひっそりと暮らしたい。それだけだ。
夢とか希望を持ってなくてもいい平凡な暮らし……。
「それより、サボ、鍵は何処なの?」
「はははっ、何処だろうな」
「ちょっと、それはないでしょ。どーするのよ、お風呂とか」
「あー服を脱ぐとき困るな」
「困るのそこじゃないっ。全く……クリップとかあるよね?」
「絶対に渡さねえ。シャトランなら開けれそうだ」
「もう、本当に困るんですけど!!」
結局。
「で、サボ君とシャトランちゃんはそのまま食堂に来た訳ねー」
食堂でテーブルで反対側に座ったコアラがクスクス、笑っている。
私は慣れない左手でスプーンをなんとか使いながら、オムライスを食べている。今日の夕食のメニューはオムライスだ。
「サボ君も大概だね」
「そうなの。コアラ、手錠の鍵知らない?」
「後で持っていてあげる」
「ありがとう」
「別に持って来なくていいのによ……」
「サボ君、子供みたいなことしない。……でも、シャトランちゃん。出て行きたいの?」
小首を傾げるコアラに私は苦笑いする。可愛いけど、絆されちゃ駄目。
「逆に私が革命軍の役に立てるとは到底思えないんだけど。強運なだけだし」
「そうなの?……うーん、例えば時限爆弾の解体の時に赤と青のワイヤーが残った時とか?」
「コアラ、なんでそう、限定的なんだ」
「あ、あと運も実力のうちって言うし、シャトランちゃんがいるだけで革命軍の運も向くかもしれない」
とっくに食べ終わって頬杖をついて話をしていたサボ。
「俺は運なんていらねえ」
「……サボ君、そう言うとシャトランちゃん自身が役に立てるって思える
こと他に見つけないといけないんだよ?」
「革命軍に、いなくていい。シャトランは俺の傍にいればいいんだ」
サボが当たり前のように、私を見ながら言った。
それを聞いた私は逃げ出そうと、腰を浮かしたが、じゃらりと手錠の鎖をサボにいつのまにか掴まれていて、遠くへは行けなかった。
「ほら、手錠も便利だろ?」
(絶対に逃がさねえよ)
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[mokuji]
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