(青峰視点)



秋らしく肌寒くなってきたこの頃。
まあそんなの屋内いたら関係ねえけど、と思いながら、俺は氷がたっぷり入ったコーラを啜った。


いきなりマジバに呼び出した元相棒を盗み見る。こいつが用事なしに俺に会おうなんて考えるはずがねえ。そもそも適当な用ならメールですませりゃいいんだ。
それなのに席についた時からだんまりを決め込んでいる。

「テツ、用があんなら言え」

「そうですね。踏み切れずにいましたが…やっぱり実行に移した方がいいでしょう。待たせてすみませんでした」

そう言って両手で包んでいたバニラシェイクを机に置いた。こいつは昔からこればっかりだ。

「僕とデートしませんか」



予想のはるか斜め上を行く提案にこけそうになった俺はおかしくないはずだ。



  *  *  *


驚きのあまり口を開けたままの俺を気にもせず、テツはたんたんと喋り始めた。

「最近黄瀬くん、人気ですよね。いえ、彼は前から皆に気に入られていましたか。あんなに綺麗な顔をしてるのに性格は人懐っこくて、尻尾をふって話しかける彼を見て君はいつもイライラしていた」

俺の目を真っ直ぐに刺すテツの瞳は淡い色のガラス玉のようだ。いつだって真実をうつす。
全て見抜かれていたのかと思うと気まずい。これでは否定したところでとんだお笑い草だ。
完全に退路を塞がれた俺は「うるせぇよ」と尖りもしない照れ隠しを返すので精一杯だった。

「高校でも楽しくやっているようですね。よくじゃれている先輩…」

俺の眉が意図せずピクリと動いた。

「彼と話している時の黄瀬くんを見ていると、僕でも少し寂しい気持ちになります」

俺の気分は自分でも分かるくらい落ち込んでいった。テツまであいつの話すんじゃねえよ。
黄瀬んとこの主将は、言わば黄瀬の新しい飼い主みたいなもんだった。ふらふらしたり勝手に穴に落ちたり突っ走ったりしがちな駄犬には、どうしても怒鳴って引っ張り戻してやる存在が必要だ。

中学時代は、テツや俺だけじゃなく赤司やさつきも、もっと言えばキセキの世代全員が無意識のうちにその役割を果たしていた。
だけど今はあいつだけだ。尻尾ふって無邪気に笑って信頼しきってる黄瀬の姿を見ると、胸が黒い気持ちで満たされる。


「それだけじゃない。火神くんも黄瀬くんの話ばかりです」

テツの言葉にほんのり苛立ちが混ざった。近しい人しか分からないだろう違いだが、俺だってこいつの光だった。これくらいすぐ感じ取れる。
それに今の発言は聞き捨てならない。

「火神が?」

「はい。近頃お気に入りですよ。理由は……たくさんあるようですが。黄瀬くんは一瞬にいると楽しいですし、火神くんはあれで世話焼きなのでほっとけないんでしょう」

バスケも、うまいですし。
ポツリと呟いた言葉に思わず手が伸びた。テツには似合わない自信のない声だったから。
慣れた手つきで頭を撫で回すと、目だけで見上げてきた。

「てめえとのバスケだって楽しいぜ。火神もあんなんよりお前の方が可愛いと思ってるよ」

青峰くんも慰めたり出来るんですか、という失礼な感嘆は聞かなかったことにした。テツが薄く笑ったから、まあいいかと思った。


「それでデートしたいって?」

首を縦に動かし、透き通った眼差しに静かな怒りを燃やした。

「青峰くんはよくされているので興味ないかもしれませんが、僕だってたまには嫉妬されたいんです。僕だけ悩むのは不公平です」

破綻しているような論理だが、言いたいことはなんとなく理解出来た。俺だって興味あるからな。
「憧れるのはもうやめる」とか言いやがって、それから俺への執着みたいなもんが減った気がする。前ほどがっつかなくなったっつーか、嫉妬も中学時代に比べて随分少なくなった。

「…賛成するぜ、テツ」

テツが拳を突き出してきたので、あの頃よく見た光景にニヤリと笑い自分の拳を合わせた。

「交渉成立ですね」


たまには翻弄したっていいじゃないか。
俺たちはそのままデートの予定を組んだ。今週の日曜日が楽しみだ。



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