(黄瀬視点)



バッシュが床をこする耳障りの良い音、少しずつ荒くなってゆく呼吸、それらは彼が産み出した輝くばかりのものたち、その全てが俺の世界を形作る。


放課後の体育館は俺が1日のうちで最も待ち望んでいたものだった。いつもきらきら輝く君が俺を見てくれる(くれないことも多いけど)数少ない時間だからだ。


今日もまた飽きずに部活後の青峰っちを誘う。だるそうな顔も、めんどくさそうな返事も目に入れないようにして。

「1on1やろうっス!」

「俺は疲れてんだよ、テツとやれ。」

「俺は青峰っちとやりたいんス!一回でいいからー!」
駄々っ子のようにバスケットボールを持って地団駄を踏む俺は、君の目にどう映っているんだろう。友達だったら嬉しいけど、少しでもライバルに近かったらもっと嬉しくて、そして同じくらい嬉しいのは――


顔を拭いていたタオルをずらしてちらりとこちらを見る鋭い眼光も、呆れたようにため息をついて結局バッシュの紐を結び直してくれる大きな手も、あらがいむなしく俺の視界を埋め尽くす。


「一回だからな」

ボールを身体の一部のように自然に扱いドリブルする。

ダン、ダン、ダン

まるで青峰っちの鼓動を聞いているようでドキドキした。

「早くしろよ」

薄く笑った彼は、俺の心を掴んでやまない。
勝てないと感じたのも初めてで、逃げられないと悟ったのもまた初めての経験だった。




「っはー!今日も無理だったっスー!」

ぐでんと冷たい床に横になる。数十分前よりだいぶ熱くなった体温を少しでも逃すように、床と触れあう表面積を広げた。

「俺に勝つなんて100億年はえーんだよ!」

黄瀬のくせに。俺の隣にかがみこんで額を叩かれる。触れた場所から沸騰しそうだ。
100億年だなんて、青峰っちは恒星よりずっと遠いところにいるんスか。

「…青峰っちが笑った顔超可愛いっス」

いつもの野獣のように細く痛いほど鋭い瞳を、きょとんと少し大きくして青峰っちは驚いた。幼い君にも会いたかったな。
こめかみから頬にかけて流れる汗が、やっぱりとても綺麗だと思った。

「うっせぇよ!!」

我にかえった青峰っちに今度は先ほどより強く額を叩かれる。じんじんと別の意味で熱くなった額を押さえた。

こうやって友達として触れあうことが多くなるほど、胸は痛くなる。




バスケットボールが頭に当たり、目の前に星が飛んだと思ったら、ボールを拾いにきた彼のプレーを見て俺は今度こそ本当の星を見つけたと思った。

その瞬間、退屈だった世界に音が溢れ、色がついた。くるくるとまわりだした景色に胸が踊った。泣きたくなる程の感動が俺にガツンとぶつかった。
止まったままの世界を急激に動かしたのは君だった。


ずっと前を走る後ろ姿に追い付きたくて、もらってばかりの初めてを返してやりたくて、バスケを始めて徐々に君に近付いていた気がした。
なのに、

近付いて、そして、好きになってしまった俺はまたもや負けだ。
これじゃいつまでも隣には立てない、初めてなんて今でも貰ってばかりだし、それに青峰っちとは距離が出来た気がした。



男同士なんて気持ち悪いっスよね。



いつの間にか同じように横に寝転んでいた青峰っちの横顔を伺う。瞳を閉じて静かに息をしている。

俺を囲んだ彼の軌跡は、動悸を早くし確実に呼吸を苦しくしていく。




いつか隣に立ってみたいっス、
ギリギリでも泣きべそかきながらでもいいから。





一等星は二度笑う

(遠い夢を期待する俺はきっとスピカを見ると泣いてしまう)




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20121028




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