鳥籠の中のお姫様

side:シャルナール
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「次の獲物は【詠使い】だ。」




全ては、団長の一言から始まった。



















団長がそう言ったのが一週間前。

俺は今、自室のパソコンと睨めっこしながら、
【詠使い】についての資料を纏めている。


「なるほどねぇ〜。」


資料に書かれている内容に、俺は思わず顔を歪めた。


「少女の詠によって平和を築いた国、か」






【歌う国“リーフィア”。

 その名の通り、この国には少女の歌声が一日中響いている。
 この歌には不思議な力があり、聞いた者の心を穏やかにしてくれるという。
 この国の住民は皆心優しく穏やかで、争い事は全くなかったそうだ。

 しかし、平和になったのは9年程前から。
 それまでは国王の独裁に反感を持った住民が城を襲撃する、という事が日常茶飯事だったそうだ。


 14年前、城に一人の女の子が生まれた。
 この少女は【言霊】を持っており、この少女の言った言葉は全てが現実になったらしい。
 
 少女が5歳になった頃。
 少女は、突然歌を詠いだした。
 その歌は国中に響き渡ったという。

 そしてその歌を聞いた国王は独裁をやめ、
 住民も心穏やかになり、
 国は永遠の平和を手に入れた...】




一見童話の様にキレイな話に思えるその内容。

少し蓋を開ければ、出てくるわ出てくるわ。
大人の汚いドロドロとしたものが。


俺は資料のページをめくった。



「シャル」

「なーに、団長?」


音もなく入って来て俺の後ろに立っている人物。



クロロ=ルシルフル



俺達、蜘蛛の団長だ。



「情報は集まったか?」

「ほい、これね。」


そう言って、俺は纏め終わった資料を団長に渡した。


「今回の参加人数って何人だっけ?」

「俺、シャル、パク、マチ、フェイタン、フィンクス、ノブナガ、ウボォだ」

「ほぼ全員じゃん。」


ははっと笑いながら、8人分の資料を作り上げる。


「はい、終了!」


俺はグーっと体を伸ばし、パソコンの電源を落とした。


「ご苦労だった。さっそく打ち合わせをするぞ。」

「あいさー。」


軽く返事をし、俺達は部屋を出た。







 * *







「全員いるな。」

ホールに到着すると、既に全員揃っていた。


「これが今回の資料ねぇ。」

一人一人に渡していく。
資料が全員の手元に届いたところで、団長は口を開いた。



「今日の夜、出発する。
リーフィアには約3日程で着くだろう。
派手にはやらず城内だけ襲え。」

「それはいいんけどよぉ、団長。
この【詠使い】っつーのは何なんだ?
これ見てる限りじゃガキみてぇだが……」


ウボォが資料を見ながら言う。


「顔写真はないのかい?」

マチが俺に聞くが、俺は首を横に振った。


「顔写真に関しては、どこをどう探しても見つからなかったんだ。
どうやらこの子、生まれてから一切城の外には出てないみたいなんだよね。」



俺自身調べていて分かったこと。

【詠使い】の伝承に関してはたくさん書かれているが、
その核心に触れる内容はどこを探しても見つからなかったという事。


ここまで情報がないと言うことは、だ。



「なるほどな。ほぼ幽閉状態だった、と言うわけか。」


団長の言葉に、俺は頷いた。


「恐らく、部屋からもあまり出してもらえてなかったと思う。
城内でもそれなりに人の目に触れていれば、もっと情報は集まっただろうし。」

「【詠使い】の持つ力の大きさを恐れての事だったんだろう。」



「だーかーらぁ!【詠使い】って何なんだよ!」


痺れを切らしたウボォが頭を掻きむしりながら、団長に言った。

他の団員も【詠使い】について全く想像がつかないんだろう。
資料を見るのをやめ、全員が団長の方に向いている。



「【詠使い】とは【言霊】を持つ者の事だ。」

「あぁ?【ことだま】ってなんd「言葉に力を持つ者の事だ。」


ウボォが言い切る前に結論を述べる団長。


「この資料にも書いてある通り、【詠使い】が言った事は全て現実になる。
詳しい事は分からないが、恐らくは念だろう。

実に興味深い。
しかも、この【詠使い】は歌を国中に響かせることが出来るらしい。
これは俺の憶測だが、その力を使えば国一つ潰す事も簡単だろう。」



団長の言葉に、全員が息を飲んだ。


「そんな強い念、たかだか14歳のガキが持てる訳ないね。
恐らくその伝説自体ガセよ。」


眉をしかめながら言うフェイに、俺は苦笑した。



(俺達も14歳のガキじゃん。)



俺、マチ、フェイはだいたい同い年だ。
いつ生まれたとか分からないから詳しい年齢とかって分かんないけど。

まぁ、多分14・15歳くらいだと思う。



「確かにこの年齢でそれだけの力を持っているのはおかしい。
どういった制約かは分からないが、条件は厳しいだろうな。」

「ふん。あくまで団長はこの話信じるか。」

「例えガセだったとしても、城にあるお宝を持って帰ればいい。
リーフィア自体が世界から切り離されている国だからな。
貴重な宝は山ほどあるだろう。」


―お前達にとっても悪い話ではないと思うが?



団長は口の端を上げた。

そんな団長に、フェイも引き下がる。



「団長、城内のどこに少女がいると考えますか?
この城内図だと特に幽閉に使われそうな部屋は見当たりませんが…」


パクが資料を見ながら尋ねた。

それは俺も疑問に思っていた事だ。
この城には地下はあれど、牢屋ばかりで部屋らしきものはない。

ハンターサイトの情報だから、城内図に関しては信用していいだろう。





―ただ一つ。



「一つだけ、城内図の西側が何も書かれずに真っ白になっているだろ。
俺は、そこだと見ている。」



そう。

この城内図には、空白がある。



城の西側。
そこだけ、詳細が書かれていないのだ。


俺が予想するに、恐らくこの西側全てが【詠使い】の部屋…行動範囲だ。

そして、西側には限られた人しか入れなかった―。





この部屋で何が行われていたか。

誰からも語られることのない真実。





(いっちょ、真実を暴いてみますか!)






今回の仕事。

久々に、俺はワクワクしていたんだ。










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