想い浮かぶのは

side:ルーエル
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「ディーネ、いるんでしょ?出てきなさい」


私は何もない空間にそう呼びかけた。

しばらくして。
渋るように現れた彼のその顔は、まさに今から叱られる子供のそれだった。


















「......なんだよ」

「分かってるくせに」

「いいのか、こんなとこで話して。誰かに見られるぞ」

「話を逸らさない。大丈夫よ、“円”で確認したもの」

「・・・・・・」

ムスッと膨れた機嫌の悪いその顔には、
“悪かったけど悪くない”
と、なんとも矛盾した気持ちがありありと書かれている。

そんなディーネに私は溜息を吐いた。

「ネテロ会長見るとすぐに突っ掛かるんだから」

「ーーっ!だってあのタヌキじじぃ腹立つんだもん!!ニヤニヤと俺がいるの分かってて挑発しやがって!!」

「ディーネを挑発したわけじゃないわよ。私をからかっただけ」

「いや、違うね!俺が姿見せてルーエルに引っ込められる瞬間、あのじじぃニヤッて笑ったんだぜ?!絶対にあれは“してやったり”って顔だった!」

「うーん、まぁネテロ会長が私の力を利用するつもりで真上に落ちてきたのは確かだけど。
でもきっと、あれは会長なりのほんの挨拶代わりよ?」

「そのやり方が気に食わねー」

ふんっとそっぽを向くディーネ。
本当、ネテロ会長とは相性が悪いみたい。

「ルーエルが“風の加護”で当たり前のように助けてくれるって思ってるその心構えが腹立つんだよ」

「違うでしょ。初めて会った時に子供扱いされたのをまだ根に持ってるんでしょ」

「だってあのじじぃより俺のが何百年も長く生きてんだぞ?!
そんなひよっこ同然の奴に子供扱いされてみろ!腹立つだろ!?」

「何言ってるの。ディーネは見た目も中身も子供じゃない。
誰だって子供として扱うわよ、きっと」

「ーーなっ?!」


「ははは、間違いないですね。」


突然横から第三者の声が介入した。
隣を見上げれば、そこには笑顔のシルフ。

「あら、シルフ」

「てめーっどういう意味だこらっ!」

「ほら、そうやってすぐに癇癪を起こすでしょう?
そういうところが“ 餓 鬼 ”だって言ってるんです」

敢えて“餓鬼”という言葉を強調したシルフ。
そんなシルフに、ディーネは頭にカッと血が登り思いっきり手を上げた。
その手に水が生まれるのを見て私は慌ててディーネの名前を呼ぶ。
しかし制止の声も虚しくディーネは思いっきり手を振り下ろした。大量の水がシルフを襲う。

しかしその水がシルフに届くことはなかった。
彼の手前、ブワっと風が巻き起こったかと思うと、たちまちのうちに水を風の中に閉じ込めてしまったのだ。
ふわふわと水が球体になって浮いている。

その光景に私とディーネが驚いていると、


「いい加減にしろよ、ウンディーネ」


ドスの効いた声が真正面から聞こえた。
その声に、ディーネの顔がヒクッと引きつる。

「ネテロのクソジジィが悪いとかどうでもいいんだよ。
テメェの後先考えない行動がルーエルに迷惑掛けたんだろうが。
今もこんなとこで水ぶち撒けたら後始末つけんのはルーエルだろ。そんなことも分かんねぇならガキ以下だぞテメェーは、ぇえ?」

「いや、あの、」

「俺はなにか間違ってるか?ルーエルは一番迷惑かけちゃいけねー相手なんじゃねーのかよ。」

「ご、ごめん。」

「俺じゃねーだろ。」

「―――っ、ルーエル悪かった!」

「“頭に血が登ってルーエルに迷惑かけました。ごめんなさい”だろーが。」

「~~~~~~っっ、頭に血が登ってルーエルに迷惑かけましたごめんなさいっっ!!!くそぉぉおお!!」

ディーネは私に勢い良く頭を下げると、叫びながらシュンっと駆け消えていった。
その消えゆく背中を呆然と見送り、私は恐る恐るシルフへと声を掛けた。

「少し、言い過ぎだったんじゃない?」

「いいえ、あれぐらいで丁度いいでしょう。
ウンディーネは自覚するべきです。
後先考えない行動が取り返しのつかないことを引き起こす前に。」

そう答えたシルフはいつものあの優しげな雰囲気を身に纏っていて。
私は、ホっと息を吐いた。

「でも、びっくりしたわ。シルフったら別人なんだもの。」

「はは、すみません。少し頭に血が登ってしまいまして。」

「・・・・・」


――シルフは怒らせないようにしよう。


そう心に固く誓った。







* *







日も暮れた頃。

私は一人、飛行船の一角にある休憩スペースにいた。




試験が終わった後、第三次試験会場へは飛行船で向かうとの事で各自自由行動となった。
到着予定は朝の八時。受験生に部屋は割り振られないらしい。

シャワーだけは浴びたいなぁ、と思った私はメンチさんに相談。
そしたら、メンチさんの部屋のシャワーを貸してくれた。嬉しい。
服の着替えはいる?と聞かれたが、水と風の魔法を合わせれば洗濯も乾燥も一瞬で出来るので、大丈夫だと断っておいた。

その後、ご飯やお酒に付き合わされそうになったのをやんわりと断り、今に至る。




大きな窓から見える綺麗な夜景を眺めながら、私はシャルのことを考えていた。

ハンター試験を受けようと思ったきっかけ。
それは、シャルのボヤいた何気ない一言だった。



“やっぱライセンス持ってるの俺だけじゃキツイよー”

“ライセンス?”

“そ、ハンターライセンス。ハンター試験に合格すると貰えるんだ”

“持ってると便利なの?”

“便利だよ。情報収集するには必須かな”

“ふーん”

“あーあ、もう一人くらいライセンス持たないかなぁー”



ビスケからの修行がひと通り終えた後、私は情報屋を始めた。
ある程度の情報収集力を付けた頃、“幻影旅団”について調べた私は、みんなのしてきた事やその強さに驚いたんだけど...

それと同時に、今の私ではみんなに会えないって強く思っちゃったの。

旅団のみんなが私を大切にしてくれてたのは、とても分かる。
どうして私に自分達がやってる事を教えなかったのか、私にもやらせようとしなかったのか。

それは、彼等の優しさで、とても深い愛で....

一般的な生活を知った上で、きっと私に選ばせようとしてくれたんだ。
そんなみんなの愛に、私はビスケと出会ってから気付いた。

私はそんなみんなに、“ありがとう”すら言えないまま、消息を断ってしまった......。

(だから、)

私は自分の左手中指に嵌った蒼い指輪に触れた。
指輪の先に付いた十字架が小さく揺れる。

(私はハンターになって、守られる側じゃなく、ちゃんと“みんなの隣に”立つんだ)

ぎゅっと、胸の前で手を握った―――その時。

「ーーーーっ?!」

私の“円”に、ある気配が引っかかった。
私は目を細めて歩いてくるその人物の気配を追う。

やがて姿を現したのは―――


「や☆」

「......ヒソカ、さん。」

「そんなに警戒しないでおくれよ。こんな場所で殺り合おうなんて思ってないから◇」

「・・・何の御用です?」

「キミと少しお話しようと思ってね。」

「私はありません。失礼致します。」

そう言って席を立ちヒソカの横を通り過ぎる。
――が、腕を捕まれ引き止められた。

「おっと、えらく冷たいじゃないか◆さっきはわざわざ念でお礼まで言ってくれたのに。」

「それはそれです。あなたみたいな殺人狂に関わりたいと思う人なんておりませんわ。」

「くくく、ハッキリ言うねぇ☆いいよ、キミのそういうところ。」

厭らしく笑うヒソカの手を振り払う。
触られた腕に残る気持ち悪い感触に、私は顔を歪めた。
今度こそ去ろうと一歩踏み出した時、



「ボク、蜘蛛のメンバーなんだ★」



ビクッと、体が無意識に止まった。
そんな私の姿に、彼が可笑しそうに笑ったのが分かる。

(―――うそ、アイツが、旅団に...?)

クロロは、私を殺そうとしたヤツを、仲間にしたの?


なんで――――


(いや、“なんで”なんて自惚れにも程があるわ。)

私はみんなに大切にされてきた。
でも、その事と“幻影旅団”に関することは関係ない。
私は彼らの仕事を何一つ知らないし、関わってもいないのだから。


「へぇー、あの危険度Aクラスの賞金首集団。道理で殺人狂だと思いましたわ。」

(違う、シャル達はこんな奴とは違う―――っ!)


自分を守るためにみんなを悪く言っている自分が許せない。
必死に心の中で言い訳をしながら、それでも平静を装った。

「キミは、蜘蛛のメンバーと知り合いだろう?」

「えらく断定的な言い方ですわね。何か根拠でも?」

「蜘蛛は4年前からある少女を探しているんだ。
その少女っていうのが、4年前にボクが殺したはずの少女でね◇」

「殺したはず、ですか。妙な言い方ですこと。」

「そう、妙なんだ◆ボクは目の前で彼女が崖から落ちて行くのをこの目で見た。
崖は下が見えないほどに高かったし、彼女はボクの攻撃を受けて瀕死状態だった。
そんな状況だと、普通死んだと思うだろう☆?」

「そうですわね。生きているっていう選択肢すら浮かばないでしょう。」

「あぁ。だからボクもその少女の死を手土産に蜘蛛に入ろうと思った。
だけど、それだとボクの都合が悪くなったんだ★」

「・・・え?」

この時、私は初めてヒソカの方を向いた。
彼は私と目が合うと嬉しそうに目を細め、ソファへと腰を下ろす。

「長話になりそうだ。キミも座ったらどうだい◇?」

そんなヒソカの誘いに、しばらく彼を睨みつけたあと、私は警戒するように向かいのソファへと腰を下ろした。
ヒソカが満足そうに笑い、「いい子だ☆」と言う。実に不愉快極まりない。


「さて、じゃあボクが知る限りの事をキミに話すよ☆
今から話すこと全てが、キミが蜘蛛を知っているという根拠だ。

―――聞くだろう?」


ニヤリと嫌な笑みを浮かべて聞いてくる奇術師に、私は無機質な視線を返した。



「えぇ、聞いて差し上げますわ。」





下手(したて)になんか、出てやるものか。






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