4


「さてそれじゃあ自己紹介でもしましょうか」

 パンと小気味良く両手を合わせた水櫁が言った。

「は?」

 声を合わせたのはおにぎりを頬張る悟空以外の4人だ。三蔵と双蓮に至ってはいつも寄っている眉間の皺がさらに深くなった。

「待て。いったいどうしてそうなった」
「どうしても何もこれから一緒に行くんですから。当然でしょう?」

 水櫁はどこに問題があるかわからないと言うように首をかしげる。いや問題だらけだろ、と心中二度目のシンクロを果たす。

「だって目的地は一緒じゃないですか。悟空さんたちも西へ行くんでしょう? だったら『旅は道連れ、世は情け』。大人数の方が楽しいじゃないですか」
「いや『楽しいじゃないですか』じゃないだろ!? 何でこんな金髪不良生臭江流なんかと!!」

 水櫁に「冗談じゃない」とわめき散らす一方で八戒は三蔵の額の血管がぴくりと動いたことに気づく。

「……誰が金髪不良生臭野郎だって?」

三蔵から漂ういつも以上に強烈に漂う不機嫌な空気に悟空と悟浄が息飲む。

「ハッ! どうやら自覚はあるのがマシか」
「テメエにだけは言われたくねえな。この鳥の巣頭。他の奴らに馬鹿にされて倉庫でボロ泣きしてた泣き虫野郎が」
「……そういうアンタこそこっそりお師匠さまの法衣着て一人ニヤついてたの見られてないと思ってたか?」
「なっ! 八依(やえ)っテメエ……!」

 悟空、悟浄も三蔵から漂う不穏な空気に息を飲んだ。その予感は的中し、次の瞬間にはがチャリと不穏な音が耳につく。

「ちょうどいい。あん時の決着を付けようじゃないか」
「いいだろう」

 向き合った2丁の拳銃のトリガーにかけられた引き金がゆっくりと動き、弾倉がゆるりと回る。冗談抜きの火花が散る前に2人の間に水櫁と八戒が入った。

「まあまあ少し落ち着きましょうよ」
「そうですよ。いくらなんでもそれはやりすぎです」
「これが黙ってられるかってんだ!」

 一字一句綺麗に揃った怒号が青空に響いた。しかし次の瞬間、水櫁の全く空気の読めていない質問に2人の威勢はぴゃっと引っ込む。

「ところでおふたりはやっぱりお知り合いだったんですね!」

 こればかりはそうならざるを得なかった。

「いま仲良さそうに話してるじゃないですか」
「は!? 馬っ鹿じゃねえの!? 眼科行って来い眼科!! ついでに耳鼻科も!!」
「酷いですね。これでも視力2.0はあるんですよ。聴力も問題ですしおすし」
「そういう意味じゃねえ!! 何でそうな――」
「だって彼、いまあなたのこと八依って呼んだじゃないですか」

 二方向から息を呑む音に続いて舌打ちが鳴る。お互い僅かに目を動かして盗み見るが、視線が合うとさっと逸らした。
 一体何のことだと首を傾げる八戒たちの横で水櫁だけが愉快そうに口元を覆い、小さく肩を揺らしながら笑っていた。

「八依というのは彼女の幼名です」
「え!? 何で三蔵がそんなこと知ってんの!?」
「そういうやあ、いま三蔵のことも江流っつたよな……?」
「じゃあ本当におふたりは――」

 何とも言えない3つの視線を受けて2人は苦々しい表情を浮かべながら頷いた。マジかよ、と悟空と悟浄が零す。

「察しのとおり、コイツと同じ寺院で育ったんだよ」
「でも、女性ですよね?」
「そこは、まあ、色々」

 さっきの会話から三蔵と双蓮の師匠が関係しているのだろうと察する八戒。

「話戻すけど、何で一緒に。つーか、無理やり旅に連れてこられただけで、いまいち要領得てないだけど」
「マジかよ!」

 と、悟空。

「だから捨てて一泊してから帰ろうと思ってた」
「うわあ、一緒に育っただけあってどっかの坊主と似て物騒だな」
「おいそこの赤ゴキブリ聞こえてるぞ」

 双蓮の撃ち殺しそうな視線に悟浄はおとなしく降参のポーズを取った。その横では悟空が「初めてなのにすでにゴキブリ呼ばわりされてる」とおにぎりで膨れたお腹を抱えながら笑っている。

「ああ? 聖天経文が目的じゃねえのか?」

 三蔵の一言に双蓮が目の色を変える。

「なんだって?」
「……ソイツから聞いてねえのか? 妖怪の暴走に利用されてるらしい」

 沈黙。
 双蓮の飢えた獣のようにぎらついた雰囲気に全員が息を飲み、身構える。

 が、

「名前は双蓮。嫌いなモンは酒、煙草。特にアタシの前で吸ったらタダじゃ置かねえからな」

 自己紹介は以上。さっさと準備しろと言わんばかりにスクーターに跨った。

|  
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -