オレンジジュースの奥手な恋
「何で告白しないの?」
ぶふぉあ。
和気あいあいとしていた会話を切れ味抜群のスコーピオンがぶった斬った。
久しぶりにお茶の誘いに乗ってくれたA級唯一の女子チームを率いる加古さん。ちょうど防衛任務も終わり、珍しく時間が空いていたこともあって、本部のオープンスペースではなく、少し足を伸ばして全国チェーンのファミレスに来ていた。
「い、いきなりなんすか……」
斬った吹いたのはあくまで想像の世界の話であって、黒い煙が上がらなければテーブルには水滴ひとつ飛び散っていない。
「いきなりも何もないでしょ? ずっと木虎ちゃんの話をしてたんだから」
「いやまあそうなんすけど……」
「で、するの? しないの?」
加古さんは足を組み直すと、俺を試すように口元の黒子に指を当てた。加古さんを加古さんたらしめる魅惑の黒子に俺はなりたい。
じゃなくて!
「できてたら苦労はしませんよぉ!!」
そりゃあできるものなら今すぐにでもしにいきたいですとも! と立ち上がれば店内すべての視線が集まり慌てて座る。
「でもそれどころじゃないですし……」
「ボーダー1の女たらしが呆れるわね」
「ううっ返すお言葉もありません」
加古さんの深いため息にさらに体が萎縮する。だって話すことは愚か、視界に入れるだけで動悸めまいがするのだ。あ、テレビだったり写真は問題ない。いや、おおありなんだけど。
「話にならないわね。そんなんじゃ玉狛の彼に取られるわよ」
そう言うと加古さんはごく自然な動作で伝票を片手に席を立った。
「あっ!! 俺が!!」
「本命に手が出せないヘタレに奢られるほど安い女じゃないわ」
「その代わりくっついた証にはたんとおごってもらうわよ」と言い残して加古さんはモデル顔負けのうっとりするようなウォーキングで去っていった。