あめだま
今日の防衛任務は近界民が現れた。わずか二体のそれらは自分たちが見回っていた地区とは離れた太刀川隊のほうに出現し、月見さんからあっという間に駆逐完了の知らせが来た。そのまま続けてくるかと思われたが、そのまま増援もなし。恙無く俺たちの任務は終わった。
「どうせならこっちに来ればよかったのになー」
「つべこべ言ってないでさっさと帰る支度をしろ。もうすぐ試験だろう」
物足りなさを模擬戦で晴らそうとするのを首根っこ掴んで帰そうとする。この間の試験も補修ギリギリで、月見さんの目がそろそろまずい。ただでさえ彼女は太刀川さんというかなりの問題児を抱えている。それに加え陽介までとなると……。
「秀次〜」
「おっ、千莉じゃん。なんだ? 模擬戦の誘いなら――」
「……陽介」
低い声で睨みをきかせば、「じょーだんだって」と冷や汗とともに身を引いた。
「何か用か?」
「用ってほどでもないんだけど、はいこれ」
雑に放られたのは飴玉。いかにも着色料で染めましたというような色。
「……別にいい」
「はあ〜なんでよ!? 別に飴嫌いじゃなかったでしょ!?」
嫌いじゃないが、渡された色に俺は食べる気になれなかった。
その理由にほかの誰でもない自分が戸惑う。本人に言うなど、もってのほかだった。
「秀次、なんか最近あたしにアタリ強くない?」
「今更じゃないか?」
「余計タチ悪いわ!! 何!? あたし秀次になにかした!?」
「そういうわけじゃ……」
「もしかしてまだ名前のこと根に持ってんの!?」などと言い寄られる。それはもう済んだ話で別にそんなつもりはないと振り返ってみるもこれも正直なところ何かしこりのようなものが残っていて言葉が躓く。
やけに食い下がる千莉を宥めていたら陽介が首を突っ込んで、
「秀次がいらねーならオレにくれよ」
と俺の手の中から飴をさらっていこうとする。はっと体をねじるようにその手を拒んだ。
二人の唖然とする表情に自分が何をしたか気づく。もう後戻りはできないとわかったなら勢いのまま口で封を切ってそのまま放り込んだ。
「これでいいだろ」
もう知らんとマフラーを口元に引き上げて千莉の横を通り過ぎる。背後からかけてくる声はなく、それをいいことに足早でその場を去った。
「……くそっ」
飴の色があいつの瞳と同じで、それを取られるのが嫌で奪ったなんてどうやったって言えるわけがない。