男の娘でもノーサンキュー
※全体的に辻くんが可哀想
※若干セクハラ宣言あり
※腐ってないです健全です(Not BL夢)
「新ー、一緒に帰ろうぜー」
ホームルームも終わり、ぞろぞろと教室から出ている時龍之介が辻にそう声をかけた。
同じクラスでよくつるむ2人は方や女たらしの異名を持ち、方や重度の女性恐怖症という非常に対照的である。しかしもともとの波長があったのか、入学して仲良くなるまでそう時間はかからなかった。
「悪い、今日夜から防衛任務が入ってるんだ」
なによりボーダーに入ってることが2人の距離を縮めることとなった。所属が本部と支部の違いはあるが、それは些細なことだ。ちなみに出水や時枝に次ぐアシストマスターコンビでもある。
「いや、ちょうど本部に用事があるからさ」
「なんかあるのか?」
「陽介達と模擬戦。千莉のやつが勝手に頭数に入れててよー」
「ああ、お疲れ」
「新も来ない?」
「いや、古賀がいるから……」
「だよな。あんな中身ゴリラでも顔だけはいいもんなあ」
この場に千莉がいたら光の速さでトリオン器官と伝達脳を破壊されベイルアウトしてたことだろう。幸い彼女は別の高校なのでせいぜいくしゃみが出るぐらいだ。
だらだらと喋りながら校門を抜けようとした時、「龍之介」と声がかかった。
仄かに甘さを感じるような声に2人とも振り向けば、そこに高校生ほどの私服の女の子がいた。
不味い、と思う辻とは対照的に龍之介はわかりやすくぱあぁと顔を輝かせた。
「伊吹さんじゃないですか!!」
「えっ!?」と目を皿のようにする辻を差し置いて駆け寄る。
「やっほー」
「どうしたんですか? もしかして緊急召集とか!?」
「いやいやーたまたま近くを通ったからついでに送っていってあげようかなあと思って」
親指で示す先には伊吹の愛車であるシンプルな白い軽自動車。よく目を凝らすと後部座席に二宮が少し窮屈そうに座っていた。
「千莉たちと模擬戦あるんでしょ?」
「伊吹さんあなたが神か!! 新! そういうわけだから乗せてってもらおうぜ……って新?」
すぐそこにいたはずの辻がいない。慌ててあたりを見渡すと、いつの間にか10m先の電柱に隠れていた。
「おい新、大丈夫か?」
駆け寄ると、辻の顔は青白く、脂汗が酷かった。
「お、おんなの、ひとのくるま、なんて」
乗れるわけがない。
「何言ってんだ? 伊吹さんは男だぞ? ランク戦で何度も戦ってるだろ?」
けろりと言ってのける龍之介に辻の体に雷が落ちた。
「う、嘘だ!! そ、その、 ランク戦と身なりが違いすぎるだろ!?」
ランク戦で見た姿は正確無比な狙撃技術に、小柄な体格からは思えない凄まじい太刀捌き。玉狛の木崎に次ぐ完璧万能手で、荒船を始めとする後輩から羨望の眼差しを受けている。
「……あ、もしかして。新、お前トリオン体の伊吹さんしか知らねえのか?」
「えっ?」
「あれがあの人の素だぜ?」
さらさらとした艶のある髪に丈の長いシンプルなワンピースとデニムのレギンス。身なりは完璧女性のものだ。愛らしい顔立ちも相まって、これを誰が男と見るだろうか。
少なくとも辻とって彼は立派な女性に分類される。
すると伊吹が痺れを切らしたように2人に向かってきた。びくりと肩を揺らす辻だが、伊吹は「どうしたの?」と2人の間に入ってきた。
「新があんまりにも伊吹さんが可愛くて緊張してるんですよ」
「龍之介はお世辞がうまいね。そういうのは女の子に言うもんだよ」
「いやいや冗談抜きで可愛いですって、な、新?」
「あっ、その、うっ……」
男だと言われても辻の本能は伊吹を女性だと認識してしまい、言葉が出ない。
「大丈夫だよ、ちゃんと付いてるから。あ、確かめてみる?」
ちらりとスカートの裾をつかんで見せた。ただでさえ緊張で赤く染まる辻の顔に熱がさらに集中する。
「伊吹さんさすがにそれはアウトですよ」
なんて龍之介は笑っているが、辻にとっては全く笑い話にならなかった。
In 後部座席
辻「二宮さんは知ってたんですか……」
二宮「当たり前だろう。付き合いも長いし、たまにこうして本部まで送ってもらうこともあるしな」
「なんとも思わないんですか……?」
「別に個人の趣味に口を出すほど野蛮ではない。本人が楽しそうならそれでいいだろう。それより、だ」
「なんですか?」
「今度お前の女性恐怖症克服のために伊吹さんが稽古をつけてもらえることになった」
「ふぁっ!?」
「もちろんトリオン体をいじくってな」