いやよいやよも好きのうち
『東さん好きです。付き合ってください』
そう書かれた携帯画面を見て東は何度も繰り返した言葉を口にした。
「……悪いな、その気持ちには応えられない」
それでも彼女は一切引く気はないようで『お付き合いを前提に結婚でもいいです』と全く人の話を聞いてない。逆だろ、ともはや突っ込む気にもなれない。
『どうしてですか』
「どうしてって、そりゃあ一回り近く差があるのに……」
『何を言ってるんですか。恋愛に年齢なんて関係ありませんよ』
「女子高生に手を出せるわけないだろう?」
そんなこと周りに知られたら、最悪世間にでも出ようものなら今まで必死に積み上げてきたボーダーの信用はがた落ちだ。
『でも法律では女性は16歳から結婚できるんですよ?』
「法律は法律だ」
そう説いても無駄なのは知っているが、口にせずにはいられない。だいたいなんでこんなおじさん――冬島さんと一括りにされるのは嫌だが――がいいのだろうか。しかしそう言うと決まって彼女や隊員、後輩たちは「東さんは自身の良さにまったく気づいていない」と口裏を合わせてるかのようにそう食いついてくる。
すると、珍しく戸惑ったような手つきで携帯に文章を打ち込んだ。
『嫌い、ですか?』
その聞き方は卑怯だ。
「嫌いなわけ、ないだろう」
卑怯だ。
そう答えると彼女は安心したのか、目に見えて柔くその頬を染めた。
卑怯、だ。
あんなに自信満々にぐいぐいきてたのに、ここにきてそうやって一歩引くんだ。しかも無意識にやってのける狡さ。
『好きです。好きなんです、東さん』
知っている。それは一時的な感情に過ぎない。ただの思い違いだ。そう何度断っても決して折れずに俺に愛を伝えてくれる。
一瞬絆されそうになって、慌てて頭の中をリセットした。
「何度も言うようだが、その気持ちは俺に向けるものではないよ」
そうしてくしゃりと頭を撫でて、そっと立ち去る。そんなことをして余計彼女の気持ちを助長させるだけだと知っていながら。
「ずるい人」
足音で簡単に消されてしまうような小さな声が聞こえた。
嫌だ嫌だと彼女を拒絶しながら完全に突き放せないのは、どこかで何かに期待してる自分がいるからか。
誰か俺を馬鹿な大人だと嗤ってくれ。